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SS:妹(後篇)

メルとロシェの殺気が部屋の中に吹き荒れる。

地震 雷 火事 妹・・・

アスナの脳裏にそんな言葉がふとよぎった。


「後悔は叫び声で伝えてくださいまし・・・!マジックミサイル!」

メルが先手をうつ。あ〜やっちゃった。
壁まで吹っ飛ぶロシェの体。

「ロシェ!」

アスナはたまらずロシェの元へ駆ける。
急ぎロシェを抱き起こし、メルの方をキッと睨みつける。

「メル!いくらなんでも行き過ぎよ!」

・・・と、見てみたらメルがいなかった。
奥の壁に何かめり込んでる。
そこからはみ出している、恐らくメルのものであろうと思われる足。怖い。

「メルの方こそ、後悔したって知らないんだからね?」

不敵に笑みを浮かべるロシェ。手から何か煙が出てるんですけど。

木屑を払いながらメルは起き上がりロシェの元へ歩んでいく。
目が、目が光ってるように見える・・・。

「八公爵の私に戦いを挑むなんて、己の無謀さを嘆かせて差し上げますわ・・・。」

「まだまだひよっこの癖に他の八公と並べて考えるなんて、メルは気が大きいね〜。」


 仲 介 不 可 能  


アスナはとにかく二人に怪我があってはならないと、二人の間に飛び出る!


「マジックミサイル!」

クリティカル!!
アスナに直撃!!

「痛い!」

「ボロウライフ!」

クリティカル!!
クリティカル!!
アスナに直撃!!

「いや〜ん!」


「姉様、そこにいると危ないですわよ!」

「邪魔しないで、アスナ姉様!!」

二人は障害物(アスナ)を避けて撃とうと右に左に動きカーブを描くように魔法を撃ち続ける。
・・・当然命中率は落ちるわけで。

外れた魔法は壁にボッスンボッスンあたり、どんどん崩れ落ちる部屋の壁。

「あわわわ・・・修繕費が・・・ただでさえ家にはろくにお金が残っていないのに!」

メルが放った魔法が天井に飛ぶ!

崩れ落ちる天井、上からアルト君が降ってきた。・・・上はアルト君の部屋だったのね。
何が起きたのかきっとわからないままで気絶してるアルト君。

「あらあら、ごめんくださいまし。そのまま少し寝ていてくださいね?」

メルは倒れてるアルト君にニッコリ微笑みかける。
まるっきり悪びれてない。酷過ぎる。


「なかなか腕が立ちますわね・・・ロシェ姉様。では、これは如何かしら?」

「ボクもただではやられないよ・・・次の一撃でカタをつける!」

二人の魔力が増大していく・・・やばいこれは本気で宿が崩れる。


「ウーンズ!」

「ブラッドサッカー!」


二人の魔法は正面からぶつかり合い・・・爆発して隣の部屋との壁を吹き飛ばした。

部屋の中に煙が舞う。流石に疲れたのか二人はその場にへたりこむ。
やっと落ち着いたかとアスナは安心しかけるが・・・




吹き飛んだ壁と煙の奥から人影が・・・こっちに歩いてくる。


「誰の部屋かと思ったら・・・貴女達だったのね。」



 ウ イ ユ 姉 さ ん だ ! ! 



相変わらず笑顔がお美しい、そして右手に握り締めるは割れた酒瓶。怖すぎる。

酒瓶のラベルには「ラマネ・コンティ」の文字が。年代を見ると10年モノだ。
瓶からしたたり落ちるワインの滴は・・・まるで自分達の血のようにも見えた。

状況を把握した三姉妹は死を覚悟する。


「私の大事な大事な取って置き・・・」

「待って姉さん話せばわかるうわやめてその酒瓶ふりあげないで・・・ぎゃあああああああ!!」


三姉妹の悲鳴が遺跡外に木霊した。

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次の日は気持ちのいい晴れた天気の日だった。

レギオンズソウルでは数人の大工さんがテキパキと宿の壁や床の修繕工事を進めていた。
結局費用を出したのは、たまたま公用で近くを通りかかっていたメリザンドだった。

「次やったら本当に縛って連れて帰るからな・・・」

「「「すいませんでした」」」

メリザンドの前で正座する三姉妹。
自分はこういうキャラだったか?と理不尽に首をかしげるアスナ。


「重ね重ね三バカがご迷惑をおかけしまして・・・。」

ふかぶかとウイユに頭を下げるメリザンド。
当然仇敵アルカードの婚約者なんて露知らず。

「あ、いえ、とんでもありません。私の大事な妹とその家族ですから・・・。」

モジモジと話すウイユ。
いつみても可憐で麗しい。アスナはついつい見とれてしまう。

しかして、その大事な妹達に割れた酒瓶振りあげたあの光景は・・・
・・・恐ろしくてとても口には出せなかった。



ふと、アスナは青々と晴れ上がった空を見上げる。
雲ひとつない、綺麗な青空だ。


・・・結局うまく誤魔化してしまった。
結論は何も出ないままだ。どちらかを選び取ることなんて出来はしない。

「二人の喧嘩をいいことに、問題を先送りしてしまったわね・・・。」

「え?」

メルが不思議そうにこっちを見てくる。

そうだ、とりあえずメルには少しだけしてあげれることがあった。
アスナは懐から、例のなくならないルージュを取り出してバアル・ゼブルで文字を刻む。

「私はこれからどういう道を選び取っていくのかまだ自分でもわからないけど・・・心はいつでもメルと一緒にあるからね。」

そういって、ルージュをそっとメルに手渡した。

『Ever moment with you. A to M』

ルージュには小さくそう刻んであった。

「ありがとう・・・ございます。」

メルははにかみながらルージュをギュッと握りしめてくれた。

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どこまでも続く真っ白な風景。



アスナは、ああまたここかと思う。
誰にでも時々あるであろう、夢を見ながら夢と気づいてしまう時。


例によってやっぱり目覚め方はわからない。
大体目覚めたところでどうせまだ夜中だ。また寝るとわかっているのにわざわざ目を覚ますのも如何なものか。

アスナは軽く頭を捻った。


「相変わらず悩んでいるんだね、アスナは。」


顔をあげると父がいた。

「お父様、私は私がどうあるべきなのかわからないのです。

 メルもロシェもどっちかを選び取るなんてことは出来ない。
 今のままではどっちも満足に守ってあげることが出来ないんです。」

魔剣の柄を握り締めるアスナ。


「どちらかを選ばなくてもいいんだよ、どっちも君の大切な妹なんだからね。
 何度も言うけど君は君のままで頑張ればいいのさ。」

そういって父はアスナの頭を軽く撫でた。




「私はいつでもここで君を見守っているよ。アスナ、また会おう。」

そう言って父は白い闇の中に姿を消した。

異種共有(前篇)へ続く

 作者

アスナ

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