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SS:魔女との遭遇(後編)

 アリシアがレディボーンズという女に向かって回り込もうと走り出す。
 それを横目にアルディンは声高に叫んだ。
 戦場で鍛えられた矢叫びは伊達ではない。
「人間相手は久しぶりだが、来るがいい! この魔斧槍使いアルディンが稽古を付けてやる!」
 あからさまな挑発に3人の兵士が一様に攻め入る。
 タイミングを微妙にずらして突撃してくるあたり、熟練を感じるが教科書通りの正攻法である。
 アルディンは兵士Aとの一合目を力任せに弾いて脇に弾くと、兵士Bとの2合目を反動を利用して駆けるように当てて流す。
 兵士Cとの3合目を下がりつつ薙いで弾くと、三人との距離が同一にならないよう、個人対個人となるよう兵士Cへと距離を詰めた。
 舞うように切り結ぶアルディンと取り囲もうとする兵士達。
 その剣戟の合間を縫ってウィオラが魔法を放つ。
「光よっ!」
 魔力で生み出された光が収束し、次の瞬間兵士達へと小規模な爆発が襲い掛かった。
 怯んだ隙を逃さずアルディンが反撃にと大きく魔斧槍ガリウスを掲げて切り込む。
 豪快に魔斧槍を振り回し、剣を振りかざす兵士Aを薙ぎ倒す。
「そんなものかっ!」
 上段から豪快な一撃を打ち込んだかと思えば、次の瞬間には別の兵士へと魔斧槍を巧みに操り鋭い突きを放っている。
 アルディンは止まらない。
 兵士Bへと下段突きから上に切り上げ、怯んだ所を中段突きにして昏倒させると、背後から襲ってくる兵士Cの剣を横に軽くステップを踏んで交わす。
 距離を詰めて一気にたたみかける兵士Cの連撃を、魔斧槍を棒の様に扱い、腹で捌くと、逆に距離を詰めて強烈なボディブローをお見舞いした。
 昏倒とは行かなかったものの、大きく怯んだ所を後退しながら切り下ろした魔斧槍が襲う。
 辛うじて交わした兵士Cを流れるような突きと豪快な斧の斬撃が次々に襲い、ついに耐え切れなくなったてバランスを崩した兵士Cは、脳天に魔斧槍の石突と呼ばれる柄の底を叩き込まれて昏倒した。
「実践は随分と積んだみたいだが、鍛錬が足りないな。俺が教官ならグランド20週追加だ。精進しろ」
「アルディンさんって、こんなに強かったんですね……」
「一体どう見られてたんだ、俺。まぁそれはそれとして、問題はあっちだが」
「加勢します」
「あぁ、なんだ、その……加勢するのが躊躇われて仕方ない」


「このオバサンがっ!」
 アリシアの気合の乗った一撃は、生き物のように鞭がうねり、側面からレディボーンズを狙う。
「女の魅力なんてこれっぽっちもない小娘がっ!」
 側面に魔力の力場を作って鞭を弾くと、拳大の魔力の塊をアリシア目掛けて投げつけた。投擲された魔力は途中で弾けて5つに別れてアリシアを襲う。
「はっ! あたしの虜は世界中にいるわよっ」
 一薙ぎ。全ての魔力球を鞭で弾くと、そのまま切り返す形で鞭がレディボーンズを襲う。
「最近は頭の弱い娘が受けるんですってね!」
 華麗に交わしてさらに魔力球を投擲するレディボーンズ。
「死にさらせ!」
 叩き落すのが間に合わないのか、前転しながら魔力球を避けたアリシアは、そのまま起き掛けに鞭を振るう。
「あらやだ野蛮な娘」
 弱めに肩入った鞭に顔をしかめつつ追撃の魔力球を放つレディーボーンズ。
「乳ばっかりに栄養が行って攻め手の計算もでいない低脳に言われたくないわ!」
 距離が近くなったせいか、魔力球が分裂する前に叩き落したアリシアはそのまま相手へと距離を詰めた。
「これでも研究員でして! 貴女よりよっぽど頭が良くてよ!」
 後退しつつ肩の傷を癒すレディーボーンズにアリシアが襲い掛かる。
「よっぽど学力が低い国なんですね! どこのおサルの山かしらっ!」
 足に向けて鞭を放つも、レディーボーンズはそれを軽く飛んで交わしてみせる。
「あたしがサルですって! だったらあんたなんか脳無しカゲロウよっ!」
 レディボーンズが鞭を飛んで交わすと同時に反撃の魔力球を叩き込もうと手を突き出した瞬間、アリシアに胸倉を掴まれその場に足を止められる。
 すかさず胸倉を抑えるアリシアの手を取って押さえ込み、逆の手で相手の髪を掴もうとすると、今度はその手をアリシアが掴み返した。
 計らずも力比べの様相となった二人は互いに睨み合う。
 そして、壮絶な舌戦が始まった。
 近距離でひたすらお互いを罵しる声は、信じがたいことに辺りに物理的な力を伴って衝撃波を放った。
 方や命術使い、方や呪術使いの二人は、系統こそ異なれ、言葉に魔力を乗せて相手へ叩きつける。
 近距離ノーガードの殴りあいの如き舌戦が、二人の間に魔力のぶつかり合いを生み、それが衝撃派となって周囲に放たれていた。


「近づきたくないですね……」
「まぁ、そうも言ってられないんでな」
 二人の動きが束の間止まったことをいいことに、づかづかと近づくアルディン。
 二人の間で交わされる罵詈雑言に辟易するも、近づき、大きく振り上げた魔斧槍ガリウスを大地に叩きつけた。
 轟音。
 地霊に干渉して砕いた大地は爆ぜ、陥没し、小規模な地震を伴い巨大なクレーターへと姿を変えた。
「なっ……!」
「ちょっ……!」
 組み付いていたのがお互いに抱き合うように大地に突っ伏したアリシアとレディーボーンズは、絶句しながらアルディンを見上げた。
 陥没した大地に飲み込まれ、大きな落とし穴に落ちたようになった二人。
 どちらからともなくお互いが抱き合ってることに気付いたアリシアとレディーボーンズは弾けるように離れて睨み合う。
 軽く飛び降りたアルディンはレディーボーンズの近くに着地すると、警戒するレディーボーンズへと一瞬で詰める。
「うっ、な、何よ」
「あんまり綺麗なお姉さんがお痛するもんじゃないぜ」
 そういって顔を寄せるアルディン。
 相手の瞳を覗き込む目には、力があった。
 レディボーンズは嗤う、そこには底知れぬ闇を思わせる妖気が蠢いている。
「あら、良く見ればいい男。そんな女捨てて私に乗り換えない?」
「お仲間はみんなオネンネだ。どうする?」
「あらあら……ダメねぇ14隊ちゃん」
 そう言ってレディボーンズは倒れた兵士達に手をかざす。
 すると、彼女と兵士が同時に宙に浮かんだ。
「今度合ったら貴方にダンスの相手をお願いしようかしら! そっちの小娘は品がなくていけないわっ!」
「あんですってぇ!」
「私の可愛い14隊ちゃん、もっとイイトコロに連れてってあげるわ。ふふっ……」
 兵士ごとそのまま遠くに飛び去っていった……
「行かせて良かったのですか?」
「趣味じゃない、と言ったら怒るか?」
「アルディンさんっぽいです」
「そうそう、あんなセンスのない女」
 ズレたことを言うアリシアにキョトンした視線を送るウィオラとアルディン。
 クスクスと笑うウィオラにつられてアルディンも次第に声に出して笑う。
「ちょっと、何笑ってるのよ」
「いや、お前最強だなと思ってな」
「あったりまえでしょ」

マリナ様が見てるへ続く

 作者

アルディン