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SS:魔女との遭遇

 それは一枚の手紙だった。
 拠点として使っている宿屋、レギオンズソウル。
 その宿屋に預けられた一通の手紙。
 そしてそれと共に置かれた一個の石。
 本隊とは別行動となった今のアルディンに宛てられたものである。
 高級羊皮紙に流麗な文字で書かれた手紙には、マリナティア・クラウンフィールドの署名があった。

──拝啓アルディン様
  余寒お伺い申し上げます
  本格的な寒さを迎える折、皆様お障りございませんか。
  さて、遅れて進まれるアルディン様の、一日も早い合流を願い、ここにこの先の危険地帯の地図を記します。
  この地図が少しでもお役に立てることを祈っております。
  途中には巷を騒がせる軍服の一団が待ち構えいるはずです。
  私どもは辛うじて難を逃れることが出来ましたが、行く先々で冒険者の方々を襲っては足止めしているようです。
  どうかご準備怠られませぬよう。
  若葉芽吹くのが待ち遠しい毎日ですが、どうぞお元気でお過ごされますよう──

「……寒中見舞い、なのか?」
 思わず文面を読んで頭を傾げるアルディン。
「面白い皇妃よ」
 担いだ魔斧槍ガリウスが声を発する。
「お前、読めるのかよ……」
「我が妖魔より吸うのは力だけではない、その知識も吸い上げる。以前倒した妖魔に知能の高いのがいたのであろう」
「便利だなぁ、その能力。てかどうやって斧槍のお前がこの手紙を盗み見てるのか謎だな……」
「で、どうするのだ」
「どうするって何を?」
「14隊と書かれてある。巷で有名などこぞの分隊であろう」
 アルディンは手紙を折りたたみ内ポケットにしまう。とガリウスを再び手に持つ。
「知ってるよ。まぁ阻むものがあるなら力ずくで押し通るのみ、ってな」
「お前も存外単純よな」
 嘆息をするような雰囲気を漂わせて言うガリウスをアルディンは鼻で一笑に付した。
「言ってろ。突破できるやつらがいるってことは、大した敵じゃないってことだ」
「して、その石は?」
 手紙と一緒に預けられていた石を取るアルディン。
「なんか文字が彫ってあるなぁ。何か魔力が篭ってるみたいだが、ただの魔石ってわけでもないか」
「説明は特に書いていないようだな」
「意味深だな。とりあえず持って行くか」
 そう言ってアルディンは石をポケットにしまった。
 14隊との遭遇は目前である。

 アルディンは手紙に書かれていた手紙を懐にしまった。
 詳細な地図が書かれてあるのは実に有り難い。
 このペースで進めば追いつけるのも遠い日ではあるまいと、そう思えてくる。
 遺跡内に入って二日目、14隊との遭遇予想地点まで到達したことでアルディンは警戒を強めていた。
「分かってると思うが、事前に得られた情報は3つ」
 横を歩くアリシアとウィオラに向かって再確認をするアルディン。
「一つ、敵は4人組、どこかの軍隊の兵士が3人と女が一人」
 指を一つ立てて言うアルディン。
「一つ、隊長が別にいるらしいが現在の所行方不明」
 二つ目を立ててアリシアを見る。
「一つ、敵は回復術を使うらしい」
 三つ目を立ててウィオラを見る。
「対策は本当にこのままで良いのでしょうか」
 不安げに眉を歪めるウィオラ。
「力で押し切る」
「うわっ、単純」
 アリシアが呆れながら言うが、自信満々のアルディンんは引かない。
「単純な攻撃が一番強いって習わなかったか?」
「相手の方が数が多いのよ?」
「俺が切り込み、お前が足止め。ウィオラは俺を援護。ほら、完璧」
「何その俺様シフト。ガキ大将じゃあるまいし」
「危険ですよアルディンさん」
 心配そうに言う二人にアルディンは意味不明な自信を見せる。
「まぁ見てろって」
 実際アルディンは内に漲る力を感じていた。
 魔斧槍ガリウスの切れ味も増している。
 明らかにこの島のマナがアルディンに影響を及ぼしている。
 これが自身に取って良いことなのかどうかは分からないが、それでも呪いを打ち消せる日が近づくのではと思わずにはいられない。 
「アリシア、ウィオラ、そこで止まれ」
「分かってるわよ」
 得物の鞭を取り出すアリシア。
「え、えっと、敵ですか?」
 慌てて魔石を構えるウィオラ。
 そして茂みの奥、暗い木々の影から歩み出てきたのは、一人の美女と兵士風の男たちが3人。
「あーら、鼻のいい犬がいるのかしら?」
「それだけ殺気出してたら分かるわよ」
 女の態度にアリシアが頬を引きつらせながら言い返す。
「あら、私の色香がにじみ出ちゃったかしら。私って罪作りな女ね」
「あーら、オバサンの色気じゃ釣れても禿げ親父が関の山よ。さっさと国に帰んなさい」
 何故か二人の間に火花が散った。
「はぁ? 何この小娘、八つ裂きにされたいみたいね」
「綺麗に料理してあげるから、さっさとかかってきなさいな」
 火花が具現化しそうな勢いでにらみ合う二人。
「どうやら命がいらないらしいわね」
「あーら、あたしに勝てると思ってるの? センスだけじゃなくって目もお年寄りかしら?」
「ぶっ殺すわ」
「上等!」
 完全に置いて行かれたアルディンは、それまでの勢いが何処吹く風で、二人を見やる。
 ウィオラは相変わらずオロオロしていた。どうもこういう修羅場には慣れていないらしい。
「えーっと、あ、アリシア?」
「アルディン、援護なさい。ウィオラ突破口を作るわよ」
「は、はいっ」
 アリシアの号令を機に、戦いの火蓋は切って落とされた。

魔女との遭遇(後編)へ続く

 作者

アルディン