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SS:星の記憶

 島の中を南西に進むこと早5日。
 何度もエキュオスとの交戦を繰り返し、最南端へとついに到着する時がやってきた。
 砂地に点在する遺跡からは高濃度のマナを吸収したアイテムが発掘されており、今回のギルドの移動もこの宝が目当てだ。
 それと一緒にアルディンはいくつかの噂を聞いたことがあった。
 曰く、世界の真実に触れるアカシックレコードが存在する。
 曰く、全てを記した真実の書が眠っている。
 それは偽島に何度か渡ったことのある冒険者達の間で語られる笑い話のようなものだった。
 しかしそれでもアルディンはその噂に頼って探してみるつもりでいた。
 呪いを解く方法を探すということが、この旅における最大の目的である以上、失敗覚悟で挑戦するのが当然というものだ。
 もっとも、期待をしているわけではないのだが。
「ねーアルディン、これ何かな?」
 目的地に到着し、探索を始めるやすぐに砂の中からアリシアが発見したものは、大地にはめ込まれた巨大な鉄の扉であった。
「………扉だな」
 どこからどう見ても扉である。それも地の底へと続く扉である。
 力を込めて開けてみようとするも、びくともしない。
「……下層に降りる階段か?」
「うふふ、いよいよ待ちに待ったお宝とご対面かしら。興奮するわー」
 ほくほく顔で喜ぶアリシアをよそ目に、アルディンはこの扉に何となく不吉な予感を覚えた。
「少し強引だが、開けるぞ」
 アルディンは両手を地につき石壁を召還する。
 扉と大地のつなぎ目を石壁に変えたアルディンは、そのまま命じて扉ごと移動させる。
「あんた便利な技持ってるわねぇ」
「元々地霊術は探索用に色々覚えたからなぁ」
 数歩踏みだし奥を覗けば、そこには螺旋を描く階段が続いている。
「あはっ、お宝の臭いがする。アルディン行くわよっ」
 そう言ってアリシアが走って行くのを追いかけるアルディン。
 ガチャ。
「っておい、今お前何か踏まなかったか?」
 ぷるぷると震えながら見返してくる。目が涙目だった。
「ふ、踏んでないわよ」
「入り口が閉まったな……」
 暗くなった階段に声が木霊する。
「そ、そうね……」
 沈黙が二人の間に降り、とぼとぼと二人は歩いた。
 随所に生えた光苔が適度に階段を照らしているせいで、まったく先が見えないということはなさそうで、それにアルディンはほっとする。
 光苔は毒素が強いと生息できないので、無臭の毒ガスの危険はとりあえずないようである。
 ふと、通路の先に怪しい光の反射を見つけるアルディン
「あー、暗くて分かりにくいが、そこあからさまにスイッチあるよな?」
 ぽちっ。
「すすす、スイッチなんてないわよ」
 明らかに手で壁のスイッチを押し込んだアリシアは、汗をだらだら流しながら両手で何とか隠そうとする。
「……あー、変な音しないか?」
 ため息混じりにアルディンは言う。どうにも予感が的中したようだ。
「……聞きたくないわーっ!」
 見上げれば巨大な岩が階段を破壊しながら転がってくる。
 奮迅を巻き上げ、瓦礫の山を築きながら一本道を二人めがけて転がり落ちてくる。
「逃げるぞっ」
「もう逃げてるっ!」
 ぽちっ。
「槍が飛んでっきた!」
「だぁぁっ! 私にはそんなの見えないわぁっ!」
 強引に鞭でたたき落とす。
 右から一斉に飛びくる槍を飛んで回避し、左から狙い澄ましたように飛んでくる槍をさらに鞭で叩き落とす。
 アリシアが背後を振り返れば岩はもう目前だった。
 その時、階段の途中に部屋がぽっかりと空いているのをアルディンが発見する。
「あそこだっ! 飛び込めっ!」
 精一杯大きな声を張り上げて、アルディンが叫ぶ。
「どっせーぃ!」
 かけ声一つ。
 背中に風圧を感じながら二人は部屋に飛び込んだ。
「間一髪ね!」
 ぽちっ。
「でもないか……」
「……うぅ、わざとじゃないのよ……」
 二人が今度は何だと周囲を警戒した直後、ドスンという大きな音と共に部屋への通路が岩で塞がれる。
 そして、じりじりと天井が落ちはじめた。
「くっそっぉ! とにかく奥へ走れっ!」
「言われなくたってぇ」
「くそっ、大地よっ」
 召還される石壁。
「ナイス、アルディン!」
 しかし石壁は天井に押しつぶされていく。
「って役立たずぅ!」
「時間稼ぎにゃなるだろっ」
「天井を石壁に変えちゃいなさい!」
「落ちてくるのは一緒だろうがぁ!」
「出口が見えたわよっ」
「飛ぶぞっ」
 盛大に転がり込む。
 二人が安心したのはそこまでだった。
「って今度はっ」
 転がり込んだ先の床がきれいに消失した。
「こんなろぉっ!」
 アルディンは落下しながら側面を拳で殴ると、かべからボコリと石壁が生える。
「つかまってっ」
 体を重力がとらえて自由落下へと移ろうとする最中、アリシアは鞭を石壁へと巻き付けアルディンへ手を伸ばす。
 指先が触れあい、そして離れた。
「ぐえっ」
 アルディンは落ちながらアリシアの足を掴む。
「ど、こ、を……触ってるのよっ!」
「あー、何と言いますか、そもそもその石壁俺が召還したんですがっ」
「見上げるなっ!」
「頭を踏み踏みするなっ!」
 再び石壁を横の壁から召還して足場を作ると、少しぐったりとアルディンは座り込む。
 落とし穴は横に4メートル縦に10メートルといったところか、落とし穴というよりは巨大な縦穴である。
「命がいくつあっても足りないな……なんだよここ、こんな大がかりな遺跡だったのか? 下層は何処行ったんだよ」
「とりあえず降りるわよ」
「もうちょっと休ませてくれ……」
 落ちていれば命に関わっただろう高さを、石壁を召還して足場を作りながら降りていく。
「ここは……」
「明かりがいるわね……これたいまつかしら」
「使えるみたいだな」
 アリシアが手に取ると、ふっと息を吹きかけた。
 不死鳥の魔力によって深い紅色の火が灯る。
「なーんにもないわねぇ」
 壁をトントンたたいている。
「こういう時はね、ここらへんを、こうやってっと」
 ぽちっ。
「今変な音が……」
「音なんて……聞こえないんだからね……」
 ごごごごごっ。
「うそ、壁が崩れて道ができたよ」
「ほ、ほーら見てみなさい。私のおかげよっ」
 ガッツボーズを取ると、アリシアは我先にと奥へ踏み出した。
「ここは……見てっ」
 見れば金銀財宝。光輝く宝石に、金貨銀貨がところせましと溢れかえっている。
 宝冠、宝玉、宝杖。装飾の凝った宝剣から、金の甲冑まで飾られていた。
「本当にお宝か……、アリシア、そこでストップ」
 アルディンに首裏の服を捕まれて振り向くアリシア。
「何よ、苦労してお宝に巡り会えたじゃない」 
「トラップの多さにまだ懲りてないか?」
「うっ……」 
「ここは慎重にだな」
 ぽちっ。
「し、慎重にだな」
「もーっ馬鹿っ!」
 そして、閃光。
 轟音。
 ドーンという大爆発と共に視界が一瞬暗転する。
 勢いよく爆風ではじき飛ばされたアルディンは、一気に遺跡の外に飛ばされ、今度は視界いっぱいに青空が広がった。
 そしてそのままパフンという変な擬音と共に砂の大地へと突き刺さる。
 接触の瞬間に砂をパウダー状に変えて勢いを殺したものの、一歩間違えればあの世行きである。
「いつつ、心なしか、なんか体が頑丈になってきた気がするよ……って、何だこれ?」
 ひらひらと空から舞い降りてくる一枚の紙切れ。
 爆風で一緒に飛びだしてきたのだろうか。
 そういうえばアリシアは何処にいったのやら。
「めずらしいものを持っているにゃ」
「うぉ、大河ぁいつのまに」
 目を細めた子虎の大河ぁが隣に鎮座している。
「それはヴォイニッチ写本の1ページにゃ」
「ヴォイニッチ写本?」
「星の記憶とも言われてるにゃ」
「もしかして、かなりのレアものか?」
「写本を手にした者は星から過去の知識を何でも手に入れることができるらしいにゃ。ばっちゃまが昔もってたので臭いで分かるにゃ」
「……それってつまり」
「質問した内容に答えてくれるはずにゃ。それも一ページに一つだけらしいにゃ。その紙切れ、よく考えて使うといいにゃ」
 まじまじと紙切れを見つめる。
「そうそう、使い方は簡単にゃ。それを燃やせば煙が出てくるにゃ。魔力の塊となった煙に問いかければ答えてくれるにゃ」
 それだけ言うと、大河ぁは軽やかに跳ねて去っていく。
 まったくの偶然で手に入れたヴォイニッチ写本。
 本当に、本物か?
 これで、呪いを解く方法が分かるのか。
 しかしアルディンが深く思考する間もなく、厄災がやってくる。
「アルディンの馬鹿ぁっ!」
 何故か吹き飛ばされながらアルディンは思った。
 こんな毎日送ってたら頑丈にもなるよな、と。

苦悩の針へ続く

 作者

アルディン