あらすじ
アリシア、ウィオラの部屋を覗き込んだらそこには何故かひよこが。
不思議に思いながらも部屋の中を観察していると、脱ぎたての下着を見つけてしまうアルディン。
ドキドキを感じて硬直していると、突然痛みがアルディンを襲った。
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色んな意味で思わず生唾を飲み込んだ刹那、アルディンの腕に激痛が走る。
「ぴっ!? ぴぃぃぃぃっ!」
ひよこがそのくちばしをおもいっきりアルディンの腕に食い込ませていた。
ウィオラやアリシアが帰ってきて……という恐怖が胸の中を駆け巡ぐっていたアルディンは、痛いと思いつつも胸を撫で下ろした。
噛み付くひよこを放置していたらさらに腕に痛みが増して……。
「痛い痛い痛いっ!」
あまりの痛みに思わず手を振るも、ひよこは離れない。
「とりあえず、お前はつっつくな。ほら、分かったから。いや、だから噛むな」
執拗に噛み付くひよこに、アルディンは空いてる方の手で首裏を摘んで持ち上げる。
激しく鳴くひよこを丁度目線の位置まで持ち上げてじーっと見つめた。
睨み返すひよこ。目つきが怖い。
「なんか食いものでも食わせれば……いや糞とかやだなぁ」
「ぴぃぃぃぃっ!ぴっ!ぴっ!ぴっ!」
糞など出さないと怒っているように見えるのは気のせいだろうか。
「分かった分かった、腹減ってるんだな? 食わせるからちょっとまってろ」
騒ぐひよこに、腹をすかせてるのだろうと判断したアルディンはひよこを摘んだまま自室へと持ち帰ろうとする。
「どうせアリシアあたりが出店で買ってきたんだろなぁ。世話誰がすると思ってるんだよ……ったく」
捨て猫を拾ってきた子供を叱る母の心境はこういったものなのだろうか。
部屋に連れ帰ったひよこをベットの上に乗せ、保存食代わりに買ったクッキーを取り出す。
まだベットの上でワサワサと暴れているひよこに、数枚クッキーを放り投げた。
とたんにに飛びつき、思いのほかバリバリ食べるひよこ。
簡単なものである。
思わずニヒルな笑みを浮かべるアルディン。
「んで、お前名前は何て言うんだ」
「ぴっ」
旨いといっているのか、名前を名乗っているのか分からなかったが、旨いこと返答するもんだと、少し面白くなるアルディン。
「ま、しかし聞いて答えるわけないよな。ゲレゲレとかどうだ?」
「ぴぃぃぃぃっ(怒)」
噛み付くゲレゲレ(仮)。しかしそれは予想済みである。すぐさま噛み付くゲレゲレ(仮)を引き剥がし、チョコンとベットの上に置いてやる。
「分かった、悪かったって。真面目に考えるから、ってかクッキー食べるか突くかどっちかにしろ。汚いから」
「ぴぃ」
「それじゃぁ、お前の名前はうーぱーるーぱーとか、って痛いから」
「ぴぃぃぃぃぃっ(怒)」
再び引き剥がして、今度はポイッと放り投げる。3回点半の見事な着地を決めてポーズを取るうーぱーるーぱー(仮)。
「あーよく頑張ったな。お見事。しかし何だったら気に入るんだ……いまのはけっこうイケテルだろ?」
適当に拍手しながら同意を求めるアルディン。
「ぴぃ〜?」
「いや、うろんげな視線で見返すの止めろ。この畜生様が」
カプリと噛み付くうーぱーるーぱー(仮)。
「分かった、噛むな。分かったから。なんかお前と意思疎通が出来てる気がするから不思議だ」
「ぴっ」
「そだなぁ。アリシアっぽいから、アをもらって、なんかもふもふグニグニしてるから、アグニなんてどーだ? よし、お前は今日からアグニだ」
「ぴぃ……ぴぃ……」
「悩むなよ」
さらにカプリと噛み付くアグニ。それをやんわりと離すアルディン。
「もうアグニでいいだろ? ほらどっかの国の神様の名前だよ」
「ぴっ」
「お、納得したか。よしじゃぁアグニ、よろしくな」
「ぴっ!」
「いや、何で自慢げなんだ」
雄雄しく胸を張るアグニにアルディンは思わず突っ込む。
「まぁ、しばらくそこのクッキーでも食ってろ。俺の部屋なら少々汚してもあとで掃除してやるよ。んじゃ俺は疲れてるから寝る」
言ってアルディンはベットに横になる。
「ぴぃぃ……ぴぃぃ」
寝転がってクッキーを食べるアグニを見れば、微妙に震えていた。
「何だ、寒いのか?」
確かに小さな鳥類には少し寒い気候なのは確かだ。ぷるぷると震える様を見かねてアルディンは再び立ち上がる。
暖炉に火を付け、クローゼットへと向かう。
「ぴぃ」
寒そうにこちらを向いてか細く鳴くアグニ。
「ほら」
言ってアルディンは毛布をもう一枚クローゼットから取り出すと、アグニに掛けてやる。
毛布の形を整え、寝やすいように巣箱の形にしてから、さらに毛布が体にかぶるように調節してやる。
「ぴっ!?」
信じがたい光景でも目にするようなアグニの驚き様に、アルディンは苦笑する。
「ま、この部屋元々二人用だし、このベットダブルだからな。半分譲ってやるから好きに使え」
言ってアルディンは服を脱ぎだす。暖を取れるのは良いのだが、暖炉に火を入れると微妙に熱くなるのが困りものだった。
「ぴっ!?」
「んじゃな」
すぐに寝息をかきだすアルディン。
「ぴぃ……」
戸惑うようにアグニの声が小さく部屋に響いた。
「それにしても、何処に行かれたのでしょう」
日が暮れてから戻ったウィオラは戦利品を机の上にならべながら、部屋に居ないアリシアを思う。
今や時間が過ぎ、既に朝を迎えていた。
「アリシアさんったら、結局帰ってきませんでしたね。しかも服脱ぎっぱなしですし。とりあえず移動まで時間ありませんし、畳んでおきますか」
テキパキと散らかったアリシアの衣服を纏めると、一応アルディンにもアリシアのことを確認しておこうと、アルディンの部屋をノックする。
「アルディンさーん、アリシアさん見てませんか」
返事がない。
「アルディンさん? 寝てるのかしら」
どうしようかと迷った挙句、興味本位からノブを回すと鍵はかかっていないようだった。
「開けますよー」
ゆっくりと扉を開く。隙間から部屋の中を少しドキドキしながら覗いたウィオラは、肌色が見えたあたりで開けるのを止めた。
「!!」
ウィオラの額に玉のような汗が浮かぶ。
何か、とても見てはいけないものを見てしまったような。
しかしここまで来たからにはちゃんと確認をしないと引っ込みが付かないウィオラ。
そして扉を開いて覗き込み……。
「!!」
ウィオラは音が出るのもかまわず弾けるように扉を閉めた。
半裸の男と裸の女。
重なり合う手と手。
……男と、女?
「えっ、な、何? 何なのっ!?」
でも今確かに。
おそるおそる再び扉を開けるウィオラ。
「……あ、あれ」
一通り見回すもそこにはアルディンしかいない。
この寒い日に何故か半裸で寝ているのが不思議だったが、セクシーな上半身がむき出しになっている。
暖炉には火が入っており、部屋の中は暖かかった。
しかし、先程は確か人がいたのだ。亜麻色の髪が目に焼きついている。
ドギマギしながらウィオラがうなっていると、チョコチョコとひよこが扉を抜けてウィオラの部屋の方へと走っていく。
「ひ、ひよこ?」
そのままひよこははウィオラの部屋へと入っていった。
「えーっと、そ、それより今は」
ひよこが何故アルディンの部屋に、という疑問が浮かんだのだが、それより先程の女性がどうしても気になってしまう。
──顔は良く見えなかったけど、あの髪の色は……──
ウィオラはアルディンの部屋に足音を消して歩み入り、そこに寝ていたであろうアリシアを探す。
ベットはもぬけのから。どうも寝巻きを着ない様子のアルディンが布団から肩をのぞかせている。
さっとクローゼットを開けてみるが、やはり何もない。
「えっと、見間違い? やだ私ったら何妄想してるのかしらっ」
思わずウィオラは顔を赤らめる。
アルディンに気付かれないように自室へと戻る。それも可能な限り早足で。
そして自室の扉を開けた瞬間、
「あらウィオラ、おかえり。朝早く何処行ってたの?」
いきなりアリシアに声を掛けられ、ウィオラは慌てた。
何をそんなに慌てているのか自分でも良く分からなかったが、なにか罪悪感を感じてしまい、ウィオラは赤面した。
「ア、アリシアさん」
「今アルディンの部屋から出てこなかった?」
「え、えっとそれは……その……えーっと」
思わず言葉に詰まる。まるで全部見透かされてるような、そんな目でアリシアが見てくる。
もしかしてアルディンの部屋を覗いていたのを見られてしまったのだろうか。
「ま、何があっても詮索はしないから、安心して。あたしちょっとお風呂入ってくるね」
そう言ってアリシアはベットから立ち上がった。
「あ、は、はい。いや、えっとそうじゃなくって」
言うが早いか、アリシアは着替えを持ってそのまま風呂場まで歩いていってしまう。
「何時の間に帰ってきたんだろう……」
そういえば、ひよこは何処に行ったのだろうかと部屋を探してみる。
しかし結局見つけられず、一体なんだったのかとウィオラは途方に暮れたのだった。
「あ、危なかった……」
風呂場にて。一気に力の抜けたアリシアが天井を見上げながらつぶやいたのだった。
新月の夜。
それは妖魔とのクォーターであるアリシアの血が最も魔力を帯びる日。
上級妖魔である黒炎不死鳥の血が混じるアリシアには、月のない夜に魔力が溢れ、魔獣の姿へと変貌してしまう。
帝国にいた時は調合される薬で難を逃れていたものの、この島では防ぐ手立てはなく、ひよこの姿になってしまうのだった。
一昼夜ずっと変身してしまう訳ではなく、ある程度管理出来るものの、月の力が弱い時間帯は大抵魔力が溢れてがひよこの姿を取ってしまう。
これはそんなアリシアの努力と涙と、笑いの記録である。
魔女との遭遇へ続く
作者
アルディン