トップ 新規 編集 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ RSS ログイン

SS:出会いは突然に

「えーっ、アルディンが出ていったって!?」
 その日アリシアは朝一番から声を荒らげた。
 いつも通りぼやーと起きて顔を洗い、お化粧をしていたらメルが顔を真っ赤にして部屋に乱入。
 騒ぎ出すから何事かと聞いたらこれだ。
「そうですわ。あの裏切り者! あれほど逃げるなって言っておいたのに!」
 ギルドマスターのメリュジーヌも可愛い顔を険しく眉根を寄せて怒気をあらわにしている。
「一体何があったのよ! っていうより私これからどうしたらいいのっ!」
「あの馬鹿は何か思いつめた顔をしながら自分探しの旅に出たに決まってますわ!」
 メリュジーヌにアルディンのことを伝えた千鶴は半眼になってそれを見つめていた。
(あながち間違ってないのでフォローができませんね)
 アルディンが一人で偽島の奥へと進もうとしている。と、そこまでしか伝えていないのだが、詳細を伝える期を逸したことを千鶴は悟った。
「こんなに美しい私が隣にいて出て行くなんて、信じられない」
 アリシアの本気であろう台詞に千鶴の額を一筋の汗が伝う。
「こんなに頼りになる私がいるのに一言もないなんて、最低ですわ」
(この二人、意外と似た者同志さんですね)
 小さなため息とも笑いとも取れる微かな吐息が漏れる。
「メル!」
「何ですの」
「……真面目な話、あたしこれからどうしよう?」
「それについてはご心配なさらずに。貴女がこの島に来られたのは金銀財宝の為でしたわね」
「あら、そこまでズバリとは言ってないわよ。光物は好きだけど。おほほほ」
「でしたら、ギルドから行程が遅れるのは問題ありませんでしょ? こちらが先に進み情報を集め、貴女に伝える、貴女は情報を元に財を手に入れる」
「一人で行けってこと?」
「いいえ、丁度先程ギルドに一人追加人員が出たのですわ。その方の案内と護衛をお願いしたいかと思いますの。もちろん報酬付きですわ」
「あら、それはそれは」
 皮算用モードに入ったアリシアの目の輝きを他所に、メリュジーヌは部屋の扉を開ける。
「紹介しますわ。こちらウィオラ。私の大切な客人ですわ」
 メリュジーヌに導かれて部屋に入ってきたのは美しい美女だった。
「始めましてウィオラ=ウェルリアスです。どうぞお見知りおきを」
 スラリと伸びた長い足。白磁のような肌。ふくよかな胸。自愛に満ちた瞳。
 可憐に微笑むウィオラの可愛らしいい表情に、思わずアリシアは同性ながらにドキリとした。

 それにしても酷いものだと思う。
 酒に酔って寝たら気持ちもスッキリ再出発。
 まったく何処の中年親父だろうか。
 背中に背負うハルバードが笑った気がした。
「さてさてどうしたものかね」
 伸びをしながら森林を抜けるアルディンは当面の目標である山脈を目指していた。
「そもそも考えをまとめたいのだろ?」
「あぁ、その通りだ」
「ならば何か新しい情報を手に入れねばな。今の段階では次の一手が読めぬ」
「確かに。だからといって情報がほいほいやってきたら苦労はないのだけどな」
「千鶴とやらにもっと話を聞けばよかったのではないか?」
「だんだんお前人間らしくなってきたな」
「ふむ、この島の空気が会うのやもしれんな。で、どうするのだ?」
「わかんねぇー」
 アルディンが思考停止状態の自分をどう言い訳するか思案していると派手に争う音が聞こえる。
 目を凝らせばなにやら冒険者が二人、以前出会った歩行雑草相手に苦戦している様子。
「あれは……」
 アルディンは突然走り出した。そこにありえない人物を認めて。
「どうした?」
「ウィオラ姫が……何でこんな所に……」
 それは、アルディンがまだアルカードであった頃、許婚として将来を誓った相手だった。

「相変わらず面倒ね、モサモサ叫ぶしキモイし」
 アリシアが自慢の鞭で敵を薙ぐ。まとめて数体が後ろへと弾かれてたたらを踏む。
「ちょっと、これは一体何なのですか!?」
 困惑気味のウィオラはゾンビのように襲い来る歩行雑草を近づいた端から魔法でなぎ倒している。
「この島の力で生まれたモンスターさん達って言ったら分かりやすいかしら?」
「普通は最初は可愛らしいのが出てくるのがご都合だと思いますっ!」
 足をふらつかせながらも、強がって見せるウィオラ。その手から魔力が迸る。
 しかしその姿も何処か頼りなさが感じられて、アリシアは思わず、なんというか、萌えた。
「あはは。何のご都合なんだかっ。それっ!」
 機敏な動きで迫ってきた歩行雑草へ鞭を一閃。
 しかし歩行雑草は衝撃で腕をもぎとられながらもウィオラに肉薄した。
「私こういうの苦手です」
 そう言いながらウィオラは大きく手を振りかぶってビンタ。歩行雑草が膝を突いて倒れる。 
「と言いながらちゃっかり殴ってるあたりいい根性してるわ。でもこれはちょっとピンチかしら?」
 気が付けば、モサモサ不思議な声を上げながら周囲を歩行雑草が囲んでいた。
「アリシアさん、そんな余裕見せてないで、逃げますよっ」
 ウィオラが魔力を相手に叩きつけ、辛うじて脱出への糸口を掴むと、全力で駆け出した。
「はいはーい」
 アリシアがそう続いた瞬間、歩行雑草が木の陰から襲い掛かる、思わず足を止めた二人に一斉に歩行雑草が襲い掛かった。
 それは絶対絶命のピンチと呼べるに違いないタイミングであった。 
 その時、爆音と共に大地が割れ、襲い来る歩行雑草達を飲み込んだ。
 立ち込める砂塵の中、現れる影。
「危ない所だったな」
 魔斧槍ガリウスを振りかざしたアルディンが立っていた。
 大地にめり込んだ魔斧槍を見る限り、地の霊に干渉して大地を陥没させたのだろう。
「あ、貴方は……」
 思わず手で口を覆う。
 一瞬ウィオラはアルディンを見て大切な人を思い出してしまった。
 彼とは別人だと感じるのに、その一方で懐かしく感じるこの感覚は何なのか。
 ウィオラは戸惑い言葉を失う。
 そのウィオラをじっと見つめ返すアルディン。
「アルディンっ!」
 そのほっぺたをアリシアのビンタが襲う。
「ごふっ! あー、アリシア御機嫌よう」
 急に何が現実に戻された気持ちでアリシアへ対処するアルディン。
 辛くも2発目のビンタを手で受け止める。
「どの面下げて私の前に出てきたぁ!こんなろぉ」
「悪い、俺にとってはどうしても必要なことなんだ」
 なおもビンタをしようとするアリシアの手を必死に押さえ込むアルディン。
 二人がプルプル震えていると、恐る恐るウィオラが聞いてくる。
「あの、アリシアさんこちらの方は?」
 ウィオラにそう声を掛けられて、何事もなかったようにアルディンを放り出すアリシア。
「あぁ初顔合わせよね。こいつはアルディン、ギルドのメンバーよ。勝手に距離を置いて考えたいことがあるとか言って出てったナルシスト野郎よ」
 勢い余って地面に投げ出されたアルディンは見上げるように二人を見る。
「うっわ、ひでぇ言われよう」
「アルディンさんですか。わざわざ危ないところを助けていただいて、ありがとうございます」
 そう言ってウィオラが手を差し伸べる。
 アルディンは少し悲しい思いが胸を締め付けるのを感じた。彼女は、やはり気付くことはないのだろう。
 こんなところで出会ったというのに、存在を削られてきたアルディンを認知することは彼女にはできない。
 こんな時ばかりは、原因である魔斧槍ガリウスが恨めしくて仕方ない。
「いやいや、良く知った顔が見えたんで助けたまでさ」
 ウィオラの差し伸べる手を在りがたく受けながら答えるアルディン。
「その……どこかでお会いしましたか?」
 その一言に思わずアルディンは硬直した。
 急にアルディンが止まったため、勢いでウィオラの方がつまづき、アルディンに引かれる形で倒れこむ。
 そしてアルディンの胸に飛び込むように倒れた。
 近距離でお互いをまじまじと見つめる二人。
「いつつ、すまんちょっとびっくりしたもんで……」
 ウィオラは顔を上気させ弾けるように飛び退いて離れた。
「あ、あの私っ」
 しかしその瞬間アルディンは再び硬直した。
 眩いばかりに美しい太ももから下腹部にかけて、本来そこにあるはずのスカートが綺麗にめくれあがり、隠さねばならない紫色の何かが目に飛び込んでくる。
 アルディンが固まっている理由が自分だと気付いたウィオラは、それこそ火を噴出しかねない勢いで赤くなり、慌てて衣服を正した。
「まじまじと見てるなぁ!」 
「いでっ」
 アリシアの放つとび蹴りに一瞬持って行かれそうになるアルディン。
「鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ。いいこと、今のは忘れなさい? 忘れないと忘れるまで私が殴るわよ?」
「いや、その、って何でお前が!?」
「いいのっ!」
 今度は鉄拳が飛んでくる。鳩尾に入って声が出ない。
「……はい。き、記憶から抹消しました」
「にやけるなぁぁっ!」
「ごふっ」
 しばらく男の絶叫が森に木霊した。

兄馬鹿と姉馬鹿へ続く

 作者

アルディン

コメント