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SS:屋根裏の秘密

 朝方、洞窟の先へと進む中で新たな魔方陣を発見することに成功し、遺跡の外に一度戻ることになった。
 慣れない探索の行程にギルドのメンバーは疲れているようで、遺跡外の拠点と定めた宿屋レギオンズソウルに到着するなり、全員が無言で睡眠を貪りだした。
 女部屋が4つと男部屋が一つ。
 一番安い部屋となる部屋に押し込まれたアルバレットとアルディンの二人は、とりあえず昼食となる食事を済ませ、て自由行動を取ることに。
 アルディンは一人、部屋のベランダで風に当たっていた。
 2Fの端ということもあり遠くが良く見渡せる。
 PTメンバーのクラウディアは意外とタフなのか、意気揚々と買い物に出かけ、アリシアは床の上でごろごろしている。
 この偽島の探索を開始して5日、知り合いとなったギルドの面々との日々は、忘れかけていた人の温かみを思い出させた。
 孤独と向き合い、呪いに苦悩したここ数年を思えば、危険に身を置きながらもこの島での時間には心の充足があった。
「ベルフェゴール3姉妹か……不思議な縁だ」
 昼下がりから黄昏れるのもどうかと自分で思うアルディンだったが、積極的に外に出るほど何かしたいということもなかった。
 強いて言うなら次の移動に備えて体力の温存だろうが。
 ふと耳を澄ませばなにやら話し声が聞こえてくる。
 ベランダから上の方、丁度屋根にあたる位置だろうか。
「ソレニシテモオ前、良クソンナニ周リヲ騙セルナ」
「騙してないですよ? 単に正体を明かしてないだけです」
「ソンナコト言ッテソノ立場ヲ利用シテ随分楽シテルダロ?」
「そんなこと無いですよ? ほら陰ながら色々支える縁の下の力持ちっているでしょ」
「縁ノ下ネェ。シカシマァ、アエテ聞カナカッタケド、何デマタココニ?」
「流れ的に? かな」
「……駄目ダロ」
「あとは、昔人間の里で密猟者に捕まった時に、助けてもらって食べさせてもらった恩かなぁ」
「飼ワレテタノカ!? 御前ガ良イナラ良イケドナ。モウチョット、プライド持テヨ」
「あっはっはっは、まぁねぇ貴族様のペットフードってそこらの宿屋の食事より贅沢なんですよ?」
「確カニソウダロウケドサ」
 笑いアウ2匹、だがしかしそんな他愛もない会話は容赦なく中断された。
「あー、もしもし?」
 屋根裏に上がったアルディンは軒先に座り込む2匹をじーっと見つめてそう言った。
「あー……」
「アー……」
 スズミヤ=サクラを守護する幼龍アルルと、元王宮に飼われていた猫大河ぁ=アルストリア。
 前者が人語を操るのはよく知っていたのだが、まさか飼い猫の大河ぁが喋るとは……・
「これは何かの魔法か?」
「にゃ、にゃ〜」
 とぼける大河ぁにアルルが冷たい目を向けため息をする。
「大河ぁちゃーん」
 アルディンは大河ぁの首裏をつかんで顔の位置まで持ち上げると、猫の目を覗き込みながら、
「御前半獣系の妖魔だな? 変身できるだろ?」
 凄みの聞いた声と目で大河ぁを問い詰めた。
「にゃ、にゃ〜?」
 惚ける大河ぁの目をさらに覗き込む。
「大河ぁ、ソノ辺ニシテオケ」
「うぅ、えーっと、こんにちわ、アルディンさん」
「……ほぉ、正直、驚いたぞ? 御前が喋れるとはなぁ。いつからって、アルマの住んでた屋敷にいたころからか、御前も役者だな」
「うはははは」
 大河ぁの頬を汗が流れた。
 色々ととっちめられそうな気がして怯える大河ぁを余所に、アルディンはそっと大河ぁを屋根裏に降ろした。
「喋れるなら夜、の見張りの時とか話し相手くらいなれよ御前」
「え、そこですか?」
 アルディンはそう言って大河ぁの額をデコピンする。
「あいたっ」
「次から見張り番やれよ?」
「は、はい」
 猫がしゅんとしながら頭を垂れるのは可愛いものだ。今度モデルを依頼しようかとアルディンは頭の隅で考える。
「んで、これは内緒にしといたほうがいいのか?」
 きょとんして大河ぁがアルディンを見返した。
「えーっと、内緒にしてもらえるんでしょうか?」
「ギブアンドテイク」
 そう言ったアルディンの顔がかなり悪魔的な微笑みに見えたのは、きっとアルルも一緒だろうと大河ぁは思った。
「ウハー」
 空を大河ぁは仰いだ。いっそバラしてしまった方が楽かもしれない。
 お昼寝ができなくなる、話すのが面倒、説明がややこしい。それくらいしか理由らしきものはなかったりするのだ。
「で、一体何をご要望で?」
「そうだなぁ……」
 その時、下の道から怒号が聞こえた。
 大河ぁにはアルディンの目が不気味に光った気がした。


「ちょっと、そこどいて下さい」
 サクラは困っていた。
 宿屋を出て買い物に出かけようとしたら、突然鎧を着た男たちに囲まれてしまったのだ。
「あぁん? ここを通りたかったら通行税出しな」
 にやついた顔で男が言ってくる。
「通行税? 意味が分かりません」
「通行税ったら通行税なんだよっ。おらっ!」
 サクラは突然殴りかかってきた手を弾くも、あまりにも唐突なことで反応しきれずによろめいた。
「きゃっ!」
 少し距離を取って相手と正対する。
 人数は4人。
 やってやれない数ではない。
 こう見えても格闘技には自信があるのだ。
「そっちがそのつもりなら、手加減しません!」
 先ほど殴りかかってきた男に向かって走り込み目前で素早く体を沈ませる。
 地に手をつきながら相手の足めがけて足払いをかけた。
「でやぁっ」
 油断していたのかあっけなく転ぶ男を踏みつけ、サクラは隣で驚いた顔をしている相手の手を掴みそのまま背負い投げた。
 投げた先にいた男共々大地に叩きつけられた。
 一瞬で3人を無力化したサクラは大柄な最後の一人に跳び蹴りを放つ。
「せぃっ」
 豪快な蹴り技が相手の胸を捉える。
 だが弾かれたのはサクラの方だった。
 大柄な男は余裕の顔で倒れたサクラに向かって歩いてくる。
「ハッハッハッ!効かねぇなぁっ」
 飛び起きたサクラが右足へとローキックを放つがぴくりともしない。
「なんてやつ……」
 大きく後ろにステップして距離を取るサクラ。かなり頑丈な相手のようだ。
「おじょうちゃん、ちょっとお痛が過ぎたなぁ。ベルクレア騎士団相手にお痛が過ぎるってもんだ」
 バキバキと拳をならしながら男がにじりよる。
 サクラの顔に恐怖が浮かんだ。
 その時、それは起こった。
「待てぃ!」
 その場に響き渡る凛々しい声。
「な、なんだっ、何処にいる?」
 慌てて騎士団の男は周りを見た。
 一通り見て誰もいないと思ったその時、宿屋の屋根裏から凜とした声が響く。
「地上に悪が満つるとき……」
 見上げる騎士団の男。
「愛する心あらば、熱き魂悪を断つ……」
 逆光でシルエットになった声の主が腕を組みながら見下ろしていた。
「人、それを真実という…!」
「何者だっ!」
「おまえたちに名乗る名前などないっ」
 どこかからシャキーンと効果音がした気がした。
「とぅ!」
 そう言って男は屋根から飛び降りる。華麗に着地する謎の男。
 そしてその後に続いて猫のような生き物が隣へと着地する。
 突然の登場にサクラは戸惑いながらも謎の男を注視する。
 謎の男は青一色のボディスーツに赤いマントをなびかせ、口元までをすっぽり覆う忍者のようなマスクに、何故か星形のグラサンをかけている。
 その肩に乗る猫も同じような青いスーツにマスクをつけていた。ちっちゃなマントが可愛らしい。
 どうやって付けているのかわからないが、おそろいの星形のグラサンをしている。
 露出部分の毛並みから猫に見えるのだが、心なしか大河ぁと毛並みが一緒な気がした。
「いくぞぉ、タイガーフォーメーショーンッ!」
 叫び声一つ。
 謎の男の頭に、猫が可愛い両手でぴたりと張り付き、髪の毛の上でがぉーと吠えた。
 猫にしては大きな体躯のせいであたまに乗っかるというより覆い被さっている。
 だめだ、可愛い。
 謎の男よりもその上で吠える猫に意識が行ってしまうサクラだった。
「破龍闘神流奥義──神拳烈破ッ!──」
 瞬歩と呼ばれる特殊な移動法で、スライドするように一瞬で距離を詰めた謎の男。
 騎士団と名乗った男が驚愕に目を見張る間に、繰り出される拳が腹を捉えて弾き飛ばした。
 巨体が中に舞った。
 大きく弧を描いて中を舞う騎士団の男に、謎の男はさらに追撃とばかりに鋭い跳び蹴りを当てた。
 轟音を伴って大地に叩きつけられる騎士団の男。
「成敗っ!」
 かっこよいポーズを決める謎の男に、サクラはどこからともなくシャキーンと効果音がした気がした。
「あ、貴方は……」
「また町のどこかで誰かが助けを呼んでいる。行かねばならない……」
 背中越しに答えてくる声はどこかで聞き覚えがあるようなないような。
「せめてお名前だけでもっ!」
「さらばだ。とぅっ」
「なんて、カッコイイ……」
 サクラは呆然と謎のヒーローを見送ることしかできなかった。


「ふぅ、ご苦労様」
「もうやりませんからね」
「何言ってるんだ、御前がいないとタイガーフォーメーションができないじゃないか」
「アルルでお願いします」
「イヤダヨ」
「アルルは具現化術で俺たちの衣装をかっこよくしてもらう役があるしなぁ」
 何故か瞳をきらきらさせたアルルがビシッと親指を立てる。
「いや、本当に、もうやりませんからっ」
「あっはっはっは」
 夕焼けに染まりゆく空の下、屋根裏に2匹と一人の姿が赤く染まった。

初雪の決闘へ続く

 作者

アルディン

コメント

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