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遺跡外の戦闘(前篇)

 本文


遺跡外、冒険者達で賑わう遺跡入口近辺から少し離れた森の中。


遺跡内のマナを含んだ地下水が湧き出る小さな沢がそこにあった。

アスナは島に来てから一早くこの場所を見つけ、普段自らの体に施してある符のメンテナンスに使っていた。
今回の休憩でもアスナは例のよって符の手入れのためにここを訪れた。

衣服の下に施してある符を全て剥がし、念入りに沢の水で洗いマナを染み込ませる。

年端もいかない少女のアスナは符の筋力増強がないとまともに戦うことは出来ない。
体も休めなければいけないが、符のメンテナンスはアスナにとっては大事な生命線の一つだった。



「アスナさん?」


不意に呼ばれて振りかえるとそこにはアルマが立っていた。

「アルマ・・・?何でこんなところへ?」

「えへへ・・・ちょっと退屈だから散歩したくなっちゃって。」

アルマは水際で符の手入れをしてるアスナの横に座り込んだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そうなんだ、それで毎回ここで符の手入れをしてるんだね。」
もの珍しそうにアスナが手入れしてる符を覗きこむアルマ。

「私には男性のような力もないし、魔力はからっきしだからね。そうでもしないと戦えないのよ。」
「あは、私も力のほうはからっきしだなぁ・・・。」
アルマが微笑う。

「あら、アルマは男性ですもの。これからいくらでも強くなれるわよ。」
「え? あ〜・・・うん、そ、そうだね〜。」
「殿方は羨ましいわ。アルディンなんか符の力なんかなしでもあんな重たそうな武器を軽々と振りまわして。」

「ふふ、アスナさんだって何百キロもある魔剣を振りまわしてるじゃない。」
「私は符の力に頼ってるからよ。符がなければペンより重いものなんて持てやしないわ。」
アスナが冗談っぽく笑う。

「それにしても、アルマはもうちょっと鍛えたほうがいいわね・・・その華奢な体つき、まるで女の子じゃない。」
しげしげとアルマの体格を見つめるアスナ。

「あ、いや。その・・・あんまりムキムキになっちゃっても困るし・・・。」
「・・・何で?」
「いやその・・・私命術師だし筋力はなくても戦えるしね・・・あはは・・・。」
アルマは思わず目を逸らす。


怪しい。


アスナは手を休めないまま、アルマのほうをじっと見る。


前々から疑問には思っていた。なんていうかその、女の子っぽすぎる。

いや、それはまだいいとしてアルマが普段から身につけている花の意匠がこらしてあるブローチ。
以前に自分がシルグムント王家の友人に贈ったものと同じものである。

元々父に買い与えられたもので、一品物だったのかどうかは知らず確信は持てないのだが・・・
アルマは幼少の頃友達になった、あのエルマではないのかと以前から疑ってはいた。


・・・ここは一つカマをかけてみようとアスナは思う。


「シルグムント。」

「はひっ!?」
「シルグムント、私の父を討った人間の王国の名前ね。聴いたことくらいはあるでしょう?」
「あ・・・あ、うん!もちろん聴いたことくらいはあるよ!」

「私ね、シルグムント王家の子にお友達がいたの。」
「へ、へぇ・・・。」

「たまたまお城に遊びに来た子でね。可愛い女の子だったなぁ、今思えばアルマにそっくりだったわ。」
「そっくりの女の子って・・・私、男の子だけどね。」

「・・・ちっ。」

「へ?」

・・・そう簡単には引っかかってくれない。



「で、そのお友達がどうしたの?」
アルマがきょとんとして尋ねる。


「・・・あ」


アスナはその先を考えてなかった。
しかし、ここでその先に立ち入ってくるということはやはりアルマはエルマではないのかもしれない・・・。

取りあえず、仕方ないのでそのまま話を続けるアスナ。

「私、お友達っていなかったのよ。スクールには行っていたんだけど、皆ベルフェゴールの血を恐れてね。
 遊びに交ぜて貰おうと思っても、畏まられてばっかりでまともにお話も出来ないし。
 あげくの果てには名前に様付けまでされてたわ。」

「・・・寂しかったんだね。」

「ええ、だからお話した時間は本当に少しだったんだけど、同じ年頃のお友達が出来たことがとても嬉しかったのよ。」

アスナも話してるうちに感傷的になってくる。
あのエルマはどうしてるのだろう、自分と同じく戦争で父を失い、家を奪われ、辛い思いをしてきたに違いない。

もし今ここにいるアルマがエルマその人だったらどんなにいいことか。

・・・だが、残念ながらアルマはエルマではないのだろう。
よく考えたらこんな遠い島の小さなギルドで故国の違う二人が偶然出会うなんて奇跡に近い。

冷静に予測していたつもりだが、本当のところただの自分の願望、妄想でしかなかったのではないかとアスナは思う。



「・・・もう一度会いたいわ。」

アルマも聴いてるうちに寂しそうな顔になっていた。

「あの・・・アスナさん。」

「何?」

「シルグムントのこと・・・その子のこと、憎んでないの?」

「それは・・・」



‐ガサガサ!


不意に茂みのほうから音がする。

二人が振りかえるとそこには敵意の目剥き出しの山猪が立っていた。

「山猪だ・・・。」
「なんでこんなところに・・・。」

「ブルルルルル・・・・」
山猪は今にも襲いかかってきそうな勢いである。
そこそこの相手ではあるが、今の二人にとっては敵ではない。

「遺跡から迷い出てきたのか、ペットが逃げだしてきたのか・・・どのみち逃げ道はなさそうだね。」
「やれやれ、遺跡外でも戦闘しなきゃいけないなんて勘弁願いたいわ。
 アルマ、とりあえずチャッチャと片付けちゃうわよ。」

アスナは傍に置いてある魔剣に手をかける・・・が

「い!?」

ビクともしない。

普段全身に貼り付けてある符が、今は一つも身につけてないことを思い出す。

「や、やば・・・」
アスナの額に冷や汗が流れる。


「あぁ〜!?」

今度はアルマが素っ頓狂な声を出す。

「えへへ・・・装備が何もない。」
引きつった笑みを浮かべるアルマ。

アスナもハッとして自分の身につけてるものに目をやる。
魔法付加も防御効果もない、ただの普段着である。


「アスナさん・・・ひょっとして私達ピンチなのでしょうか・・・。」
「・・・大分。」

思いっきり無力の二人に、山猪はジリジリと迫っていった。

遺跡外の戦闘(後篇)へ続く

 作者

アスナ

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