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遺跡外の戦闘(後篇)

 本文


対抗する手立てをほとんど持たない二人に山猪は猛然と襲いかかってきた。

「き、きた〜〜〜!!」

やむを得ず、落ちてる棒切れで斬りかかるアスナ。
山猪の体に綺麗にヒットするも、ボキンとあっさり折れる棒切れ。

「ですよね!」
「アスナさんどいて!私が!」

アルマが魔法を撃つ!今度も綺麗にヒットするも、あまり効いてる感じではない。

「魔石がないとこんなものか〜・・・。」
「そもそも私の命術は攻撃寄りではないですからね・・・。」

「ブルルルルルル・・・!!」

「う、うわ〜〜〜〜」

てんてこ舞いのへっぴり腰で山猪の攻撃を必死で避け続ける二人。

「こ、こんなの美しくないわ〜〜〜!!」
「い、生命あっての物ダネですっ!!」

「アスナさん!と、とりあえず逃げましょう!」
「バカ言わないで!こんなとこに魔剣を置いたままいけないわよ!それにアイツは足が速いし、とても逃げれないわ!」

と、言ったところで山猪の足元に魔剣が置いてあることに気づくアスナ。
山猪は不思議そうに魔剣を見つめ、触れようとする。

「あ、こら!バカ!それに触るな!」
「アスナさんダメです危ないです!」

魔剣に触れる山猪。しかし軽く白い火花が散り、アチチっとばかりに山猪は前足をどけ、少し後ろの方まで逃げ出す。

「火傷した・・・のかな?」
「そっか、契約者の許可がないと低級な魔物じゃ触れないわね。」

アスナは閃いた。

魔剣を媒介とした高エネルギーの放出、ファンタズムを使えば魔剣を振らずとも魔物を消し飛ばせる。
とりあえず魔剣を立てかけて詠唱だけすればOKだ。

「・・・ダメだ。ロシェいないじゃないの。」

肝心なとこを失念してた。アスナは苦々しそうに呟いた。
アルマは訳がわからず、不思議そうな顔する。

「あ。」

アスナはすぐに思い直す。ロシェルはいなくてもアルマがいた。
アルマはロシェルと同じ命術師。うまくやればロシェルの代わりに魔力の供給源になってくれるかもしれない。

「アルマ、ロシェの代わり・・・出来る?」

一瞬首をかしげるが、すぐに意味を理解するアルマ。

「やってみせます。」
「頼りになるわ。じゃあ一気に魔剣のとこまで走るわよ!」

アスナの合図で魔剣の元まで走りだす二人。それを見た山猪も猛然と二人の元へ襲いかかってくる。




‐しかし、本当に大丈夫なのか?アスナの脳裏に不安がよぎる。



アルマがロシェルの代行として魔力の供給をするには、アルマの真名を使わなければならない。
もしアルマが偽名の場合、契約は履行されず魔剣は反応しない。

アルマとだけ聴いているが、それが正式な本名なのか?何より本当にエルマではないのか?


モヤモヤを拭えないまま魔剣の元まで走り着いたが、重すぎて二人がかりでも中々立てかけれない。

「アスナさんこれ重すぎです!!」
「だから命術師でも程々には鍛えたほうがいいのよっ!!」

何とかかんとか魔剣を立てかける、山猪は目の前だ。
もう名前が何のかんの考えてる場合ではない、やらなければやられる。

「いくわよ、アルマ!」

二人は魔剣の柄に手を重ね置く。



「天照らす聖なる輝きよ、我が身に集え、その白き光をもって力を与えん。」

「アストレア・ミレ=ベルフェゴールの名において魔剣に命ず。
 ロシェル=ベルフェゴールに代わり彼の者の力を汝に与えん!」



 「彼の者の名は・・・」




アルマの名を言いかけたちょうどその一瞬、アスナの胸元からペンダントが零れおちる。

シルグムントの紋が刻まれているため、普段は人目につかないようにベストの下に隠して身につけている、
エルマに貰った輝龍石のペンダントだった。


一瞬、ほんの一瞬ではあるが、それを見たアルマの表情が・・・確かに変わった。




「彼の者の名はアルテリア・エルマ=シルグムンテス・・・!バアルベオルよ在るべき姿へ還れ!!」


魔剣が輝き、魔物は蒸発した。


『・・・とんだタヌキね。』
アスナは心の中で呟き、笑いながらアルマの横顔を見つめた。


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二人はその場にヘタヘタと座り込む。

「アスナさん・・・今、なんて・・・」

言いかけたアルマを制止するようにアスナが口を開く。

「憎んでないわ。」

「え?」

「シルグムントもエルマもよ。
 父を討ったとされてるアルカード=シルグムントだって、本当に憎いのか自分でもよくわかってないの。」

「・・・」

「少なくともエルマは私と同じように、戦火の中で家族の帰りを待ちわびていただけ。
 ・・・私はエルマのこと、今でも友達だって思ってるわ。」

アスナはそういってアルマに微笑みかけた。

「・・・きっと、それを聴いたらエルマさんも喜ぶと思うな。」
アルマも微笑む。

「・・・嬉しいわ。アルマ・・・さあ、帰りましょうか。」

アスナは立ちあがり、アルマの手をとった。


今は取りあえずこの形でいい。いつかまた立場の違いにとらわれず二人で笑い合える日が来れば・・・

そう願いながら、二人は帰路についた。

蠅の投剣(前篇)

 作者

アスナ

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