トップ 新規 編集 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ RSS ログイン

SS:大河ぁとお風呂

偽島に来てから、初めての冒険が終わりました。
途中で拾ったいろいろなものを処分したお金で、あれこれさんざん悩んで結局、薬を2本と簡単な保存食を2日分買いました。アルディンさんから、今回は最低4日。長ければ6日ぐらいは遺跡に居る予定だから、食料を買い忘れないようにってすごく念を押されました。
といっても、新しいネックレスを作ってもらう事を考えると、ボクのお財布の中身と必要なごはんの量がどう考えてもあいません。
「ちゃんとしたご飯を食べないで合成しちゃうなんてもったいないなぁ・・・。」
ボクにはよくわからないけど、買い込んだ食料と薬は普通に使わないで合成しちゃうそうです。
………食べれないと思うと急におなかが空いてきました。

二つの事情が重なったので、5日前に見つけた遺跡外の街から裏道を通って郊外の方へ向かうボクの足下でしゃりしゃりと音を立てて霜がひしゃげる音がします。ああ、こんなところ通らなければ良かったかなぁ、靴が汚れちゃいそう。それに寒いし。
遺跡探索してる時には気にもしないような事が色々と頭をかすめるけど、小腹の空き具合の方が気になって、ついつい早足になってしまいます。
「あぅ・・・寒いなぁ。出かけるときにちゃんと上着着てこればよかった。」
そう、ここは遺跡外のさらに外。宿のおじさんに聞いた通称草牧場と呼ばれる場所のうちの一カ所で、食用に向いた草がたくさん自生しているので駆け出しの遺跡探索者が食料調達に訪れるそうです(もぐもぐ)
これって、この遺跡外の街のいいところだよね(もぐもぐ)
そりゃ(もぐもぐ)
あんまり美味しいものじゃないけど(もぐもぐ)
ちゃんと食べられるし(もぐもぐ)
探せばすぐ見つかるし・・・(もぐもぐ)。
遺跡に持ち込むときは軽く手を加えるんだけど、生の味を楽しみつつ、ちょっと多めに草を拾い集めて、大分遅くなったけど宿に帰ることにしました。



偽島にも四季・・・というよりは、温度の変化がある・・・らしいです。
まだまだ本格的ななものじゃないらしいんだけど、今日は相当な寒さです。
「うー。寒いよー」
「ロシェ、遅かったじゃないか。もう作戦会議やってるぞ。」
「あ。………アルディンさん、ごめんね。」
そういって袋いっぱいの草を見せる。
「そういうことか。女の子がこんな時間までうろつくもんじゃぁないぞ。・・・・・それと、ここ」
ちょんちょんと自分の口元を指さす。
「あ・・・・。」
さっき草を摘みながら食べてた跡がついてたみたい。恥ずかしいよ〜
しかもアルディンさんに見つかっちゃうなんて。

ダイニングの真ん中には小さな暖炉を囲うようにテーブルがしつらえてあって、長いテーブルクロス状のものが床まで垂れています。みんなはそこに座り込んで色々相談してるみたいです。
そういえば妖魔国にもちょっと形は違うけど炬燵あったっけ。暖かいんだよねー、あれ。
ぶるりと身を震わせると、その昔ベルフェゴール公爵家が在りし日に飼っていた白猫を探す。
いたいた♪暖炉のそばで丸くなって寝ている大河ぁを見つけると抱き上げる。
「大河ぁ、みーつけた♪」
あの頃より大分大きくなっているので、持ち上げるのは一苦労だけど、えいっと一息に持ち上げて一通りもふもふぎゅーっと抱きしめて冷えた体を温める。
「大河ぁ、もうお風呂入れてもらった?」
「にゃぁ?」
「あはは。入れてもらってるわけないか。久しぶりに一緒にお風呂入ろ」
その瞬間、妙な気配がする
ロシェ姉様と一緒にお風呂!!!
でも、ボクのよく知ってる気配のような気がしたので、とりあえず無視することにしました。

メルが隣に座っていたぷららに小声でこっそりと話しかける。
「ぷららさん、ちょっと一緒に行きませんこと?」
「むに〜?どこへですか?」
「ロシェお姉さまのお風呂姿を見に行くのです」
「むに〜?ちょっと興味あるかも。」

「二人ともどこへ行くんだ?まだ終わってないぞ?」
「すぐ戻りますわ〜」
「まったくみんなしてこれじゃ相談になりゃしないぜ」

大河ぁをもふもふしながら2階のボクの部屋に上がる。
「さて、っと。大河ぁ、着替えるからそこでちょっと待っててね。」
「にゃぁ」
無人だった冷え切った部屋の中で寒さにぱたぱたと足踏みをしながら、まず荷物から浮き輪を取り出して膨らませる。
え?やだな、僕が使うんじゃないよ。大河ぁをお風呂に入れてあげるのに使うんだよ。
やや大きめの浮き輪を膨らませ終わると、お風呂セットを取り出して、今度は自分の服を脱ぎながら大河ぁに話しかける。
「大河ぁもお風呂入れてもらうのってそういえば久しぶりじゃない?」
「にゃぁ?」
大河ぁに話しかけると、なんとなく鳴き声で相づちを打ってくれるのでついつい話しかけちゃうんだよね。ボクの言ってることわかってるのかな?なんて。
「これで準備良しっと。大河ぁおとなしくしてたね、いいこいいこ。」
大河ぁの頭をなでる。
なんとなく大河ぁ以外の視線を感じる・・・。
「大河ぁはかしこいなぁ」
「にゃぁ」
誰に見られるかわからないので、旅に出る前にお風呂用に用意したパレオ付きの白いワンピースの水着を着こんだボクは、腰に浮き輪を引っかけて、大河ぁを抱いて、小走りで露天風呂へ向かう。
いや、ほんとに寒いんだからっ。早くお風呂お風呂。

なんだか背中が視線で熱いです・・・・。いつもの妙な気配を感じつつ大河ぁとお風呂タイム。とりあえず温泉の熱いお湯をかぶって軽く暖まってから、大河ぁをゴシゴシする。
「んー。大分汚れちゃったみたいだね。しっかり洗ってあげるね。」
「にゃぁ〜」
「洗いっこしよっか、なんて大河ぁには無理だね〜、あはは。」

「洗いっこですってーーーー」
脇の茂みからこっそり物陰から覗くメルとぷららの姿があった。
「ああ、ロシェ姉様の水着姿たまりませんわ」
「そもそも水着でお風呂入ってるのどうかと思う。むにぃ〜」
洗い終わったので、大河ぁを浮き輪にのせて湯船に浮かべると、今度は自分の体を洗う。
いつもどおり、右腕、左腕、それから首から順に下に向かって、水着を脱がないように、それから特に胸に気をつけながらゴシゴシする。
「お姉様、水着脱がないのかしら?」
「むにー。ロシェ、器用なことするね」
一段落してボクも湯船に入ると、たぶんそこに居るだろうメルに声をかける。
「メル〜?そこに居るんでしょ?入っておいでよ。」
返事がない。あれ?居ないのかな・・・。でもさっきから視線は感じてたし。
「背中流してあげるよ〜?」
・・・・ここ、男湯だけどね。
「よ、呼ばれてしまっては仕方ありませんわね。」
メルがパタパタと茂みから出てくる
「むに〜。僕はどうすれば・・・」
ぷららは動くに動けなかったのでそのまま見ているしかなかった。

「えいっ」
メルに頭からお湯をかけて、ゴシゴシと体を洗い終わった頃、
ガラガラッと、勢いよく戸の開く音がする。
アルディンは目を疑った。3人と1匹が居なくなったので会議もあったものではないと、
会議を中座して、先に風呂に入りに来たはずだった。
「確かに俺は男湯に」
ボクとメルが同時に口を開く
「ア、アルディンさ・・・きゃーーーーーっ」
「キャーーーっ」
ボクが驚いて悲鳴をあげるより早く、ちょうど入り口を向くように座っていたメルが光の速さで反応してアルディンさんに向かって風呂桶を投げつける。
「うおっ」
とっさに素早い動きで風呂桶をよけるアルディンさん。
あ、見えた?
「お前ら、なんでこんな所に居るんだ!」
今日は本当はこっち側のお風呂は男湯だったんだけど、初日と同じで側だったから、ボクがこっち側のお風呂に入ってみたくて、男湯と女湯の札をひっくり返したから。なんて言えないので、あわててごまかす。
「こ、こっち女湯だよ、入り口の所にあった札見なかった?」
「今日はこっちが男湯だったハズだぞ!?」
「どっちでもいいですわ!とにかく出て行ってくださいまし!」
真実がどっちであれ2対1では分が悪いと思ったらしく、とりあえず引っ込むアルディンさん。
「あーもう、どっちでもいいさ。さっさと風呂から上がれ。大河ぁまで風呂に連れてきやがって。会議の続きやるぞ。俺もすぐ行くから」

こうして結局お風呂を追い出されたボク達は、炬燵に戻って、夜食にみかんをつまみながらちょっと遅い作戦会議がやっと始まるのでした。

作者

ロシェル

コメント