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SS:呪いと祝福と

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「ふう、いいお天気!」
洗濯された白いシーツをパンパンッと伸ばし、物干し用に引かれたロープにかけている少年の姿がある。
いや・・・正確に言うと少年ではなく、少年の姿に身を窶した少女であるようだ。
アルテリア=エルマ=シルグムンテス。今は無きシルグムント王国の唯一の生き残りである。

王国滅亡より4年、少数の家臣と共に落ち延び 『ザラ湖周辺都市通商連合機構』―通称、ザラ通商連合において
前王アリアドスが懇意であった評議員議員、ガスパールの元に身を寄せていた。
アルテリアの身分はガスパール一人が知っているのみであり、家人には「大切な客人」とだけ伝えられている。
家臣たちは、ある者は王国の残党を探し王家再興のための組織作りを、ある者は王国時代の政治経験を活かしてガスパールの政務の補佐を
それぞれの能力を活かして活動していた。
そのような中でアルテリアは、「自分だけが遊んでいていいものか?」と思い簡単な家事をやらせてもらうよう頼み込み、手伝いをしているのだ。

洗濯を終え庭のベンチに座り休憩していると、背後の部屋から話し声が聞こえてきた。
「なにっ!聖王の輝冠の所在がわかったと!?」
(フェルディナンド?)
アルテリアお付きの爺や、フェルディナンドの声だ。
そっと窓から部屋を覗くアルテリア。
「は、はい・・・ガスパール殿の紹介で高名な考古学者を紹介していただき、王家の碑文録を解読させましたところ
 どうやら偽島なる島の深奥部に安置されているとのこと・・・確約は出来ませぬがその公算が高いとの話でした。」
「ふむぅ・・・王家の血に反応し七色の光を放つという聖王の輝冠・・・それによりアルテリア様の身の証を立てることが出来れば
 王家再興の為の兵も集めやすくなるというものじゃな。」
「はい、それに助力を渋っていた周辺諸国の協力も得やすくなるのではないでしょうか?」
「そう思惑どおりに周辺諸国が動くとは思わぬが・・・
 それにそのような不確かな情報で動かせるほど人手がおらぬのは事実。
 どうしたものか・・・」

(聖王の輝冠?聞いたことがあるわ・・・)
聖王の輝冠とは、建国王アルストリアの出生時、右手に握り締められていた不思議な宝石―聖王の輝石が取り付けられている。
アルストリアの血筋の者が宝石に触れると光り輝き、身の証を立てるという。
(人手が足りないのならば、私が!)
常々、家臣たちにばかり苦労をかけて申し訳ないと思っていたアルテリアは、今こそ自分の出番と思い
皆には内緒で偽島への探索に赴くことに決めたのであった。

「お腹がすきました・・・」
ガスパールの屋敷を抜け出して半日、アルテリアは空腹に襲われていた。
所詮は蝶よ花よと育てられたお姫様。何の計画も無く飛び出し、早速路頭に迷っていた。
道行く人々に「偽島にはどうすれば行けるのか?」と聞いて歩いたのだが、一般市民にその存在を知るものも無く、途方に暮れていたのだ。
大通りの噴水の脇、そこに座りこんでいるアルテリア。
「こんなとき兄上が生きていらしたら、助けていただけたのでしょうけど・・・」
先の戦争により行方不明になった兄王子アルカード。
幼い頃より失敗したり困ったことがあれば助けてくれた。
『しょうがない妹だ。』と笑いつつ、頭をくしゃっとなでてくれた。
今は無き兄のことをアルテリアは思い出していた。

それをちらちらと見ながら、なにやら話をしている数名の男たちがいた。
「よう、ぼうず。」
その中の一人、ひげ面の男が歩み寄って来て、アルテリアに声をかけて来た。
「はい、なんでしょう?」
問い返すアルテリア。
「お前、偽島への渡り方を知りたいんだって?」
「は、はい!知っておられるのですか!?」
「おう、知ってるともさ。偽島へ渡る船の船長と知り合いでな。よければ紹介してやってもいいんだが。」
なんという出来すぎた話。
アルテリアは喜び勇んで答えた。
「お願いいたします!」

少しはなれたところにいた男の仲間たちは、ニヤニヤしながらその様子を見ている。
(あのボウズ、なかなか綺麗な顔立ちしてやがる、その手の趣味の奴に高値で売れそうだぜ?)
(ああいうマヌケがいるから俺たちも稼げるってもんさね。)
(それにしても女みたいな顔してる奴だな・・・売る前に少し相手をしてもらうか。)
(おま・・・!そんな趣味があったのかよ!売りもんに傷でもつけたら親方に怒られるぜ?)
(まあそういうなって、あれだけの美少年ならまんざら悪くもねぇぜ?)
(まあ、見れば見るほど女に見えるくらい美形だが・・・じゃあ俺も一口乗ろうかな。)
(おまえもかよ!)
どうやら奴隷商人の類のようだ。

「案内していただけるのなら、お礼をしなくてはいけませんね?」
何も知らないアルテリアは無邪気に問いかける。
「あー、そうさな。銅貨5枚でいいぜ。」
そもそも奴隷として売り飛ばすつもりのひげ男は、適当な金額を言う。
「銅貨5枚ですか・・・今は宝石3つしかないのですが、おまけして貰うわけにはいかないでしょうか?」
懐から取り出した小袋からは、大粒の宝石が3つ転がり出てきた。
『な、なにーーーー!!!!!???』
ひげ男と、少しはなれて見ていた仲間たちは同時に驚きの声を上げる。
宝石は、素人目に見積もっても1つで金貨100枚はするであろう上質のものであった。
自分で買い物などしたことの無いアルテリアには、金銭の価値感覚が欠如しているのだ。

「てめえ!なんでそんなもんを持ってやがる!?」
親切な口調から一変、粗野な地が表に現れる。
「な、なぜと申されましても・・・私の持ち物ですが・・・」
「どこかの富豪のガキか!?まあいい、とりあえずこっちに来やがれ!」
大騒ぎをしたため、何人かの通行人が何事かと見ている。
人気の無い路地裏に連れ込もうとアルテリアの腕を引っ張る。
「痛い、やめてください!」
抵抗するも華奢なアルテリアは苦も無く引きずられていく。
通行人も厄介ごとに関わりたくないようで、興味はあるものの見て見ぬ振りをし遠ざかっていく。

抵抗むなしく路地裏に連れ込まれたアルテリア。
「てめえ何処の家のガキだ?痛い目に合いたくなかったら答えやがれ!」
アルテリアを問い詰めるひげ男。
「おやびーん、早いとこ奴隷商人に売り渡したほうがいいんじゃねぇですかい?」
「ばかやろう!この宝石を見てみろ!こいつの親はかなりの富豪に違いねぇ。
 こいつを餌に身代金をせしめてから売った方がいいと思わねぇか?」
「さすがおやびん!強欲っすね!だけどそこに痺れる憧れるぅ!」
仲間同士で盛り上がっている男たち。

「ふわぁ〜・・・」
どこからとも無くあくびが聞こえた。
「だ、だれだ!?」
あたりを見回す男たち。
「おやびん、上!」
高く積まれた木箱の上に、一人の青年が寝転がっていた。
「二日酔いの頭に響くから、すこし静かにしてくれないかねぇ。」
青年は男たちに言う。
「ふざけんな!痛い目に合いたくなかったらさっさと失せろ!」
ひげ男は恫喝する。
「見たところ人攫いってところか・・・めんどくさいが、酔い覚ましの運動がてら遊んでやるか。」
青年はけだるそうな瞳で男たちを見わたし、つぶやく。
「てめえ!やろうってのか!?」
男たちは一斉に腰の短刀を抜き放つ。
「おーおー、怖い怖い。」
青年は苦笑しつつ木箱から飛び降りる。

すかさず襲い掛かる男たち。
一人目が突き出す短刀を紙一重でかわし、 カウンターのボディーブロー。
後ろから襲い掛かる二人目に対してハイキック。
キックの回転を殺さずに、そのまま3人目に足払い。
覆いかぶさってくる4人目の顎に肘を打ち上げる。
「な、なんなんだてめえは!」
全ての部下を倒されたひげ男が問う。
「ん?俺か?ん〜・・・ただの通りすがりの好青年?」
「ふざきんな!」
怒りにろれつが回らなくなったひげ男が襲い掛かる!
ひげ男の振り下ろした短刀は宙を切る。
「ど、どこいきやがった!?」
一瞬で視界から消え背後に回りこんだ青年は、ひげ男の首筋に手刀を入れる。
「ここだぴょん♪」
崩れ落ちるひげ男の背後にJOJO立ちでポーズを決める青年の姿があった。
・・・ぴょん?

「あ、ありがとうございます。」
一瞬の出来事に呆然としていたアルテリアは、我に返りお礼を言う。
「ん。気をつけな、俺がいてラッキーだったが、2度はないぜ?」
手を頭の横でひらひら振りながら、青年は去ろうとする。
「偽島に行く手立てがなくなっちゃった・・・どうしよう。」
誰にとも無く呟くアルテリア。
「ん?偽島?」
その言葉に反応する青年。
「ぼうず、偽島を目指してるのか?」
「は、はい・・」
「俺も偽島を目指してるんだが、ここで会ったのも何かの縁、一緒に来るか?」
「え、あたなも?」
「ああ、先日偽島探索のギルドに入ったんだが、よければ紹介してやるぜ?」
渡りに船のなんという偶然。
「はい!お願いいたします!」
「よし決定だ。ついて来るぴょん♪
っと、ぼうず名前は?」
「アルテ・・・いえ、アルマと申します。」
おや?と少し怪訝な顔をする青年。
「アルマか、俺の名前はアルディン。よろしくな。」
アルテリアの髪をくしゃっとかき回すアルディン。
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
にっこり返すアルテリア。

呪いにより正体を知られず、変装により正体を知られず。
しかして偶然出会った祝福は運命のなせる業か。
未だお互いの正体を知らぬ二人の運命は、真実の会を得たときこそ動き始める。
その話はまた後の物語で語られることであろう。

・・・ぴょん?

  作者

アルマ

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