本文
「大人しく、下着を渡してくださいませ!」
「ダメ!メルこそ言うこと聞いて手を離しなさい!」
森の中に二人の少女の声が響き、驚いた鳥が羽ばたく。
「あの、ボクの下着伸びちゃうんだけど・・・・・・」
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事の始まりはメリュジーヌの思いつきだった。
「めりゅも何かしたいですわ」
偽島へと向かう道中、とある森の中で野営の準備をしている時だった。
アストレアは料理の準備、ロシェルは寝床の用意と忙しくしてるが、メリュジーヌは暇だった。
火の番以外に役割を与えられていないメリュジーヌは、切り株に座って足をぷらぷらさせて翼と髪の手入れをするぐらい暇だった。
「お嬢様は、お休みになられてください。すべて、すべて私たちがやりますから。ねぇロシェ?」
「え?あ、うん・・・・・・そうだね。大丈夫だよ」
メリュジーヌのつぶやきに敏感に反応し、野菜を切っていた手を止めるアストレア。
ロシェルも作業の手を止めて二人の近くへ歩いてくる。
「でも、でもでも、何もしないのは悪いわ。というわけで、今日の料理はめりゅがしますわっ♪」
腕と翼をぶんぶんばさばさ振りながら、二人にに訴えかけるメリュジーヌ。
「・・・・・・お嬢様は足が悪く御座いますし、明日のためにも休まれたほうが良いと思います(にこり」
「・・・・・・あ、えーと、メルはゆっくりしてていいよ、うん」
少しの沈黙の後に妙な迫力を伴った笑顔で返すアストレアと硬い笑顔を返すロシェル。
「ええー!?確かに、ちょーっと料理は苦手ですけれど、今度こそ美味しい料理を振舞いますわっ!」
さっきより大きく激しく翼を動かして、満面の笑顔と合わせてやる気のほどを見せ付けるメリュジーヌ。
「胃薬・・・・・・」
「あぅ・・・。あははは。あ、ありがとうメル」(半泣き
妹の好意を無下にできない二人は、それぞれに覚悟を決める。
「な、泣くほどなのですね・・・・・・」
喜ばせようと張り切っていたメリュジーヌだが、二人の態度に翼がへたりと閉じてしまう。
何とも言えない沈黙が場をつつむ。
「そうだ!洗濯とかどうかな?ほとんど魔法でやるから体力要らないし、ボクが教えてあげるから♪」
そんな中、ロシェルがメリュジーヌにも出来そうな事を思いつく。
「じゃぁ、ロシェおねぇさま、お願いいたしますわ♪」
ロシェルの提案に元気よく返事をし、荷物の置いてある場所に行こうとする二人。
「いけませんわ」
その前に立ちはだかるアストレア。
「そんな!アスナおねぇさま、これぐらいわたくしにもできますわ!」
「そうだよ、アスナ姉さま。大丈夫だと思うよ?」
立ちはだかる姉に反論する二人。
「・・・・・・ロシェル、ちょっと。ちょっとこっち来なさい」
二人の意見には何も言わずに、ロシェルに手招きをするアストレア。
「・・・・・・何?アスナ姉さま」
不満げな顔で傍まで来たロシェルにアストレアが囁く。
(何じゃなくて、洗濯物の中にはロシェの下着もあるのよ?)
(別にボクは気にしないよ?)
じり
(じゃなくって、メルは吸精鬼の血を引いてるんだから、あんまり・・・・・・その、男の子のは、ね?)
(あっ・・・・・・うーん?でも、普段から一緒に居るボクのだよ?)
じりじり
(ま、まぁ、そうかもだけど・・・・・・)
(アスナ姉さまの考えすぎだと思うよ♪)
じりじりじり
(それにメルはまだ子供なんだし、大丈夫だって)
(私の考えすぎかなぁ・・・・・・って、メル!」
ばさっ!
体に対して大きな翼を広げて低空飛行で荷物に飛んでいくメリュジーヌ。
「ばれましたわっ!」
「こらっ!待ちなさい!」
先行を許しつつも、普段から鍛えた体と反射神経を使って追いつくアストレア。
「確保ですわ!」
「追いついたっ!」
結果、お互いが同じ洗濯物を掴み、絡まりあって地面に激突しそうになる二人。
「きゃぁーーーーーー!」
「っ!」
「メルっ!」
地に叩きつけられる寸前、アストレアは持てる力全てを使って自分とメルの姿勢を立て直す。
洗濯物を使って一本釣りをされるような形でメリュジーヌは宙を舞い、無事に着地する。
「「・・・・・・」」
ぐい
「メル?手を離しなさい」
ぐいぐい
「い・や・で・す・わ。アスナおねぇさま♪」
ぐいぐいぐい
「いくら可愛い妹でも、許せることと許せないことがあるわ。これは、許せないほう」
ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい
「んもぅ!大人しく、下着を渡してくださいませ!」
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日常的となっている姉妹喧嘩は、いつものようにロシェの仲介によってどうにか収まり、メリュジーヌは洗濯をすることとなった。
夕日に照らされながら、足場の悪い川岸をメリュジーヌが洗濯物の山を抱えて歩いている。
杖が無いため、翼を動かしてバランスを取りながら。
「あっととと・・・・・・思ったより重いですわね」
ふらりふらりとしながら、流れの遅い場所を探すメリュジーヌ。
「あっ」
不意に石に足を取られて、その場に倒れてしまう。
ぼふん
手に持ってた衣類に顔から突っ込むメリュジーヌ。
(ロシェおねぇさまのブラウス・・・・・・いい匂いがするわ。甘くて頭が痺れるような匂い)
くんかくんかはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁん
「やだもーアスナ姉さまったらぁん♪」
「ぁわっ!な、なんでもありませんわっ!」
不意に聞こえてきたロシェルの声に、我に返るメリュジーヌ。
「べ、別にやましい事など何もありませんわ!わたくしは大丈夫、大丈夫」
そして、混乱のあまり意味不明な事を言ってしまう。
「落ち着きなさい、落ち着くのですわ。わたくしはメリュジーヌ・ユベール・フォン=ベルフェゴール。八公爵の一角ですわ」
すぅーはぁーすぅーはぁー
「・・・・・・うん、大丈夫。早く洗濯を終わらせて戻らないといけませんわね。日も沈んでしまいますし」
散らかった洗濯物を集めて、洗濯に適した場所へと移動を再開する。
少し大きな岩で流れが弱まっている場所を発見したメリュジーヌは濡れないように靴と靴下を脱いで素足で少しだけ川に入っていく。
「ひゃっ。ちょっと冷たいけど、気持ちがいいですわね」
川の流れ、涼しい風、眩しい夕日。
それらを感じながら足元の水を少しだけ意識する。意のままに従いなさいと念じて。
足に触れている水から波紋が起こり、その一部がぐねぐねと重力に逆らい立ち上がる。
最後にその水に粉石鹸を振りかけてぐるぐると回転させる。
「さて、準備はこれで大丈夫ですわね。後は適当に放り込んで」
岩に乗せておいた洗濯物から無造作に一枚を取る。
「えっ・・・・・・アスナおねぇさまがこんな下着履いていたなんて」
メリュジーヌの手には大人っぽいレースと透けるぐらい薄い布で構成された下着があった。
(これをアスナおねぇさまが・・・・・・どきどきどきどきどきどきどきどきどきはぁん)
じっと見つめたまま何かを妄想するメリュジーヌ。
「ロシェー?ちょっとそこの荷物取ってー」
「べ、べべべ別にやましい事なんか、ありませんわ!」
(でも、微かにアスナねぇさまの臭いが・・・・・・って、こんな所だけ敏感な父の血を呪いますわ)
「ああ、でも・・・・・・いや、だめですわ。何をしようとしているの、わたくしはっ!こんな事許されませんわ。姉妹なのに女同士なのに・・・ああっ!」
真っ赤になって、身もだえして、くねくねと身をよじる。
「あっ・・・・・・」(鼻血
ばしゃ
興奮のあまり鼻血を出して川に倒れるメリュジーヌ。
しかし、その顔は恍惚の笑みを浮かべていた。
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「お嬢様ーメリュジーヌお嬢様ー?そろそろ夕飯ですよー」
浅い川に浸りながら血を流して倒れてるメリュジーヌを見つけるアストレア。
「きゃぁぁーーー!メル?メル?ロシェー早く来て!メルが!」
「は、早く回復しなきゃ!怪我はどこー!?」
(素敵な姉が2人も居て、わたくしは幸せですわ)
作者
メリュジーヌ
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