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SS:失われし英雄

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幾多の死体が重なる戦場跡。
意識を失っていた男が目を覚まし、傷ついた体を持ち上げる。
「う・・・ここは・・・?」
意識を失う前の記憶を思い出そうとする。
「そうか・・・私はベルフェゴール公と戦い・・・そして・・・」
(ベルフェゴール公が倒れた所は憶えている・・・その時呪いがどうとか言っていたが・・・)
その時遠くから声が聞こえた。
「おーい!ここにも生存者がいたぞ!」
(自分の事であろうか?)
複数の人影が、自分の方へ駆けてくる。

「傷は多いですが、急所は避けてるみたいですね。貴官、名前は?」
救急セットを持った医療班の男が尋ねる。
「私の名は――――」
(なんだ?言葉が・・・?)
「私は――――」
名前を言おうとするが、その部分だけ声を発することができない。
(それに、いくら傷つき服装もぼろぼろになっているとはいえ、私の事がわからないのか?
 まさか、これがベルフェゴール公の呪いだとでもいうのか!?)
怪訝な顔でこちらを見ている医療班の男。

(名前も名乗れないじゃ、なにかとまずいな。最悪敵の間諜と疑われる恐れもあるか?)
じゃら
体を支えていた手に金属の鎖のようなものが触れる。
(ん?これは・・・認識票?)
兵士たちは、戦死したときその身元がわかるように、首から自分の名前のついた認識票を提げているのが慣習である。
(とりあえずこいつの名前を借りておくとするか。)
「私の名は『アルディン』だ。世話をかける。」
「いえ、これも自分の職務ですから。戦場であなた方が命を賭けて戦っているのと同様に。」
医療班の男はさほど興味もなさそうに答える。
(『アルディン』か・・・この死体の中のどれかの名前なのだろうが・・・しばらく借りさせてもらう・・・恨まないでくれよ?)

医療班の男たちに担架に乗せられ本営に運ばれていく『アルディン』。
冷たい風が吹きすさぶ戦場跡。
霊感の強い者は幻聴のような声を聞いたという。
(クク・・・その呪いの本質は貴様が思っているような物ではない。
 その呪いは本来・・・いや、当人達が気づくかどうか、こちら側の世界で眺めているのも一興というものか。
 アリアドスよ・・・貴様の子らと我が子らがこの先如何様な運命にさらされるか、久方ぶりにチェスでも交えつつ見て居ようではないか・・・)


  作者

アルマ

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