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SS:剣の主

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人里はなれた草原に3人の女性がいた。
2人の女性は相対し、そして相手の隙を伺っていた。
その最中1人の女性はその状況を固唾を呑んで見守っていた。
1人の女性の後ろには大きな剣が誰かの墓標のかのように地面に突き刺さっていた。
何故2人の女性が争う事になったのか時を遡って話をしよう・・・。

遡る事2時間前、ある女性は大剣を背負い腰に長剣を帯びていた。
大剣は明らかに複雑な装飾が施された代物で芸術的な価値も感じる品だがその反面、禍々しさを感じる品でもあった。
見る目があるものが見れば分かるだろう。あれは「魔剣」だと・・・。
そんな代物を背にしながら女性は旅を続ける。目的地は近い、多分其処に行けば彼女と会えるだろう。
その時こそ今だ見ぬ人物である「アストレア・ミレ=ベルフェゴール」を知る事が出来るだろう。
彼女はこの魔剣を持つに値する人物なのか、それを試す為に彼女の足取りを追った。

前方に二人の影が見えた。
私は集めた情報を頼りにその存在の確認をする。
どうやら彼女も此方に気付いたらしい。その視線は私ではなく寧ろ私の背にある物へと向いているようだ。
そして私が彼女に声をかけようとした寸前に彼女は細身の刃を抜き放った上で迫ってきた。
「私はアストレア・ミレ=ベルフェゴール。そして、貴方のその剣は我が父のもの、貴方どこでそれを手に入れたのです。貴方はアルカードの縁者の者か?」
早口に問い正そうと迫る彼女を見た私は背の物を外し、剣を抜き放つ。
「ふふふ・・・その答えが知りたいですか?では貴方の力を見せなさい、そしてその力でそれを取り返してみなさい。」
私は彼女の問いかけに冷笑を持って返した。
「貴方は私を愚弄しました。いいでしょう、私の力を持って取り返させて頂きます。」
そして彼女は自分の手を覆う白い手袋を外し、此方に投げつけてきた。
「ロシェ、危ないから下がってなさい。」

「さぁ、かかってきなさい。」私はこの世界には無い型の構えを取る。
「覚悟しなさい」彼女は猛然と連続した突きを繰り出してきた。
私はそれを避け続ける。そして最後の一撃を受け流す。
「では此方も反撃させて頂きますよ。」
振り下ろし、振り上げ、斬り払い、旋回斬りのコンビネーションを彼女は全て避けた。
「なるほど・・・この位は見切る力量はあるようですね。」
「貴方はどこまで私を愚弄すれば気がすむのです。」
「ふふふ・・・」
私は明確な答えは返さない。彼女は剣の腕は悪くは無いが戦士としての精神面が未熟だった。
故に私はこの戦いの中、彼女の心を攻めた。
精神の弱きものは魔剣の魅力には打ち勝てない。冷たくそして何事にも惑わされない強い意志こそ・・・私は彼女に求める。
彼女はまだ未熟ゆえにそれは抑えれない、故に猛然と来る刃には殺気はあるが恐怖する程でも無い。
「まだまだ甘いですね。この程度では・・・残念ですが、父親の元へと行って頂きましょう」
彼女の剣を跳ね上げる。跳ね上げられた細身の剣は空しく中を舞った。
「くぅ・・・。」
「自分の力の無さを悔いなさい。」
とどめの一撃とばかりに私は剣を振り下ろし・・・
「お姉様は殺させない。」
声が共に起こり、この戦いを見守り続けていた少女が飛び出して庇うかのように立ちふさがった。
私は剣を寸止めで止めるつもりだった。だが・・・
カキンと金属を併せたような音と共に剣は弾かれてしまった。
「こ、これは・・・多重障壁。まさか・・・」
「お姉様の敵はボクの敵だ。」
「手を出さないで、ロシェ。これは父の剣をかけた正式な決闘なのですよ」
その言葉を聴いて尚もロシェと呼ばれた少女は私の前を立ちはだかった。
そして少女から巻き上がる力の奔流は私の体を押し流す。
「まさか・・・覚醒した?ふ・・・ふふふ、面白い。」
私は再度武器を構えなおす。

その途端に何かが凄い勢いで私と彼女達の前を塞いだ。
それは件の魔剣・・・それであった。
「魔剣が・・・そう魔剣が彼女達を主と認めたのね、いいでしょう。」
「アストリアさん、今の貴方は未熟ですがその少女と貴方の二人の力を持って魔剣は貴方方を主と認めたようです。」
「今ならその魔剣は貴方に力を貸してくれるでしょう、さぁ手に取りなさい。そしてその力を私に見せてみなさい。」
私はそう言いながら彼女達に期待をしていた。魔剣はその名の通り所有者を蝕み、そして代わりに所有者に力を与える。
だが、今の彼女達ならば。魔剣が認めた状態であれば誤った道を進まずにその力を彼女達が使いこなせるかもしれないと・・・。
「貴方に言われなくても・・・魔剣よ、我が名はアストレア・ミレ=ベルフェゴール。私を主と認め、私に力を貸しなさい。」
彼女の声に応えるが如く魔剣は彼女の手に収まり、そして歓喜の声を上げた。
「見極めさせて頂きます・・・。」
「我が心は氷よりも冷たく、炎よりも激しい。その心より放たれし刃を我が友に乗せ全てを砕かん。奥義 イニフィニット・ブレイク」
私は自身の最高の突きを繰り出した
「魔剣よ、その力を指し示せ!」
彼女は魔剣を振りかぶる。その刃を包むかのように魔力が渦巻いていた。
そして振り下ろした・・・。

「くぅ・・・なんて威力・・・。私の技を打ち消した上に私をここまで弾き飛ばした・・・。ふふふ、認めましょう。貴方がその剣の主という事を・・・」
「ですが、貴方は貴方自身の力だけでは私には勝てなかった。故に貴方の問いを全ては応えるつもりはありません。」
「貴方は貴方の手で答えを見つけなさい。手がかりは・・・そう[偽島]という場所にあるはずです。では縁があったらまたお会いしましょう。」

「ま、待ちなさい・・・何故・・・力が入らない」
「アスナお姉様、ボクもなんだか力が入りません」
そんな二人の姿を見た後、傷ついた体に鞭打つようにして彼女達と離れた。
その顔はある種の満足した笑みが浮かんでいた。

そして数日後・・・ある宿屋にて。
あの時の衝突で修復不可能なまでに破壊された長剣と鎧と衣服を見て閉口する千鶴が居た。
「うーん、残りの路銀も少ないし・・・仕方ない、女将さんから頂いた物でも使うとしますか・・・。」
そんな事を一人ごちながら旅の支度を整える千鶴がいた。
そして彼女は願う。剣の主達が道を踏み外さぬ事を・・・。

  作者

水薙

コメント

  • 呼称関連で2箇所修正させていただきました。 - ロシェル (2009年11月13日 11時44分49秒)