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SS:血雫

「ま、まさか!? 黒い雷光がまだ・・・」

「は、黒十字の魔剣・・・、間違いございません」

「くそっ!死にぞこないが・・・」

やせ細った男は、神経質そうに頬を痙攣させながら吐き捨てた。



「はっはっは・・・やっかいなことになりましたなぁ」

帝国の将校らしき男が、可笑しそうに肩を揺らした。

「こ、このことは未だ公爵様には伝えるな!」

「はぁ・・・構いませんが、これからどうするおつもりで。伯爵?」

ニヤニヤしながら、将校は紅茶のカップをすすった。



「わ、私が直接赴く!雑兵共に任してはおられん」

あたふたと剣を手にしようとする男を将校は制止した。

「まあまあ、落ち着いて・・・。ジュドウ!」

「は、ジュドウはこれに」

将校大声を上げると、隣の部屋から隻眼の初老の武士が入ってきた。


「な、なんだぁ、こいつはぁ〜」

「くくく・・・東方国の死兵です」

「し、し、し、死兵だとぉ?お前ら人間にそんな魔力がぁ〜?!」

「西方に偽島という人工島がありましてな。そこで採れる珍しい鉱物を使うと・・・これ、このとおり」

将校は可笑しそうに言った。


「我々、ガルバルディーン帝国は『マナ』より死人すら転生させることに成功したのですよ」

「な・・・なんと・・・」

「この力を持ってすれば、反乱軍など目ではない」


将校は不気味な笑みをたたえ、呆然とする妖魔の男へ続けた。

「この力を伯爵、貴方へお貸ししましょう」

「ほ、ほんとうか」

「フフフ・・・いずれ公爵様が政権を握られた暁には、我れらと良しなにお付き合い願いたいものですな」


将校はゆっくりと立ち上がると言った。

「そうそう、偽島に黒い雷光が潜入しているとの情報が。何かを探しているらしいですな」

「探しもの?王家の生き残り・・・か?」

「恐らく。偽島へは自分が行きましょう」



外套に袖を通しながら将校は言った。

「偽島に東方国『じぱんぐ』の姫君も潜入したとの報告が。利用するのです!」

「じぱんぐ・・・シルグムントの同盟国か」

「この死兵はその国の将校。何かと役に立つでしょう・・・ふははは」

「・・・」

「伯爵!戦争にフェアはない。どんな手を使ってでも勝てば正義なのですよ!」


将校は館の扉を開け、外へと歩き出した。

闇が迫る中、太陽が遠く水平線に血の雫のようにしたたって――

 作者

パティ☆