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SS:運命の傍観者

  本文

ある女性の声が聞こえる。どうやら独り言のようだ。
「さてと戸締りして・・・っと転移の直前の状況なんて見られると説明が出来ませんからね」
彼女の名はサリア=アイリン。sMSBSの参加者で「MSぶん殴るの会」所属のパイロットだ。
彼女には同部隊員にも語れない秘密があった。
その一つに転移能力であった。見た目には転移とは分からないし、事実サリアの存在が消えるわけでもない。
簡単にいうなればスイッチの様な物で本体意識のあるサリアがそこからいなくなるだけで「器」は残るし記憶に基づいた行動も取る。
故に「彼女が存在しない」と認識できる者はほぼ居ないだろう。
だが、それでも世の中の不思議は侮れない。彼女はそれを知っている為、常に注意を払っている。
一名その事に気付いた人物がいる。彼女も自身の兄を探し、世界を旅する者だった。
次の世界へ行く際はお互いの協力を約束し、そして別れた。
この世界では彼女は別チームでそしてライバルの一人だった。

「さて・・・始めましょう」
(意識を深く深く・・・別世界とのチャンネルを繋ぐ・・・)
傍から見ればそれは何かに祈るかの様で・・・。
その後、彼女の意識は溶けて混ざって・・・その場から消えていた。

場所は変わってある世界。
彼女は透過した存在だった、所謂「精神体」とも言うべき存在だろう。
世界を跳躍するには「実体」である「器」は世界干渉を妨げる要因であり、故に彼女は「器」は常に彼の世界に残す。
結果として彼女の「端末」たる「器」は各世界に存在し、実在する。
そう・・・「彼女」の「本当の意識」がなくとも動く「人形」のようなものとして・・・。

・・・さて、話を戻そう。
場所は彼女が知らない地であり其処は戦場だった。
幾つもの動かぬ塊が地に連なり、その大地を赤き河が流れている。
遠くを見れば小さき存在より放たれた力より爆炎が巻き起こり煉獄と化していた。
その地に響き渡る怒号、叫びを彼女はある意味で悲しむ。
「存在を失う事はある意味大事な事・・・だけど残されし者への傷は深く残る・・・。」
「生は儚い。生きていることが夢であったかのように・・・消え行く時に残せるものも少ない・・・。」
そう呟きながら更に周囲を見渡すと一つの戦いに終止符がうたれ、存在を失いつつあるものと生けるものが目に映った。

「ふ・・・我を倒す程に成長したとはな・・・。しかしアルカードよ、我を討った所で何も変わらぬ・・・」
「だが、俺は俺が出来る事をする。ただ、それだけだ。」
「貴様の答えは判っていた。そういう面は貴様の父に良く似ているな。」
「答えろ。この戦争にどんな意味があったと言うんだ。何故、父を暗殺した。」
「今更知ってどうなるというのだ。最早、流れは止まらぬ、我も貴様も盤上の駒に過ぎぬのだ。だが・・・」
「だが我も人如きに敗れて逃げ帰るなど我が誇りが許さぬ」
「我が生を持って代償と為す。我が呪い・・・貴様の末期まで持っていくがよい。フフフ、ハァハハハハハ・・・」

禍々しき気配がアルカードと呼ばれた男へ纏わりつく。
そしてその気配は侵食し、そして消失した。
そして一つの骸の前からアルカードと呼ばれた男は立ち去ろうとし・・・その場に倒れた。

倒れた男を見やりながら呟く。
「あの気配・・・存在を侵食する力ですか・・・、あの男にはこの先幾多の受難が待ち受けそうですね。」
「さて、この世界での「私」を用意しましょう」
誰にも聞こえぬ呟きを漏らし、彼女は彼の地にその生を根付かせた。
そして近くに横たわる骸の一つより調達する。
「うーん、あいかわらず他人の物を着るのは良いものでは無いですね・・・。」
そう一人ごちて周囲に更に目をやった。
「ん、あの武器は・・・」
大地に突き刺さる姿は墓標とも見えるその存在を見る。
「かなりの力を秘めてますね。今の私の器では使いこなせないでしょうが・・・とりあえずは持っていきましょう」
その存在に手を掛け、そして一気に引き抜く。その重みに耐えれずよろめいてしまう。
周囲を警戒しながらその武器を携えてその地を後にした。
(所有者を選択する武器、意思を持つ剣・・・聖剣・魔剣と呼ばれる類の武器は相手に誤魔化すのは流石に難しいですね。)
そんな事を考えながら・・・。

その後、月日は流れ・・・彼女は一つのギルドに所属する事になる。
そこで待っている再会は思いもよらぬものであった。
(私は戦乙女じゃないのですけど・・・ね。あの男の行く末、私が見定めましょう・・・。)
運命の傍観者は静かそう決意したのだった・・・。

  作者

水薙

コメント

  • 設定の都合で一部修正しました - 作者 (2009年11月17日 01時18分45秒)
  • アイコンの都合で一部修正しました - 作者 (2010年08月25日 21時00分00秒)