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SS:ベノムの愛

 本文

サキュバスと思しき色香を含んだ声が庭園の片隅から聞こえてくる。
「ご主人様……いけないわ……」
とある昼下がり、ベルフェゴール公爵は使用人へ手を出していた。
「まぁ、いいじゃないか……いや、よいではないか、よいではないか」
それも、妻であるリュシエンヌの世話をしている使用人の一人だ。
「あ〜れ〜って、本当に脱がさないでくださいぃ〜私は清純派サキュバスで通しているのですからぁ〜」
器用にエプロン部分を残して徐々に肌を露にさせるベノム。
「ふっ。それがいいんじゃないか「えーベノムさまもですかぁ〜?」うぉあっ!!!」
後ろから急にかかった声に神速で飛び上がるベノム。
「あれあれ?ベノムさま驚きすぎじゃありません?も・し・か・し・て、リュシエンヌ様と思いましたぁ〜?」
後ろにはさっきまでベノムに弄ばれていたサキュバスと瓜二つな姿が笑いながら立っている。
「ふっ……そんな事は無いぞ」
前髪を払い、ビシッとポーズを決めて言い放つベノム。
「それはそうと、お前手伝え。一緒に可愛がってやるぞ?」
そろりそろりと逃げ出そうとしていた使用人を捕まえてもみしだくベノム。
「いやぁぁぁん!」「その話乗りましたっ!」
同じ声で別の答えを返す2人。
「そうと決まれば早速(とんとん)ん?何だ俺はこれからお楽し、み…を……」
答えながら元々そんなに良くなかった顔色が目に見えて死人のようになるベノム。
「何がお楽しみなのか、じーーーーーーっくり聞きたいわね。小一時間ぐらい」
豪奢なマタニティドレスを着てお腹の膨らんだ妖魔、クリアブルーの髪とダークレッドの瞳にそれなりに長身な体よりなお大きく長い翼を持った妖魔が立っていた。
満面の笑みを浮かべつつも、眼光で射抜かんばかりに強く睨み付けて仁王立ちするリュシエンヌ。
「ま、まて。これは違う。違うんだっ!」
必死に弁解しようとするベノムだが、後ろには半裸の使用人が二人。
もっとも一人は自主的に脱いだのだが。
「言い訳は聞きたくないわっ!」
ヒュバッ!
雷光のごとき速さでリュシエンヌの鉄をも引き裂く右手がベノムの頭を吹き飛ばす。
「「ひっ」」
足元に転がってきたベノムの生首を見て息を呑む2人の使用人。
「やれやれ……リュシエンヌ、酷いじゃないか。これでは君に愛をささやく事もできなくなってしまうよっと」
残った体がひょいと首を拾ってくっ付ける。
「だってぇ〜せっかくベノムに張り切ってもらおうと、この服作らせたのにぃ……ベノム妊娠プレイとか好きでしょ?」
本来なら卵生である竜種、リュシエンヌのお腹が膨らむことは無いのだが特別に卵を支える構造となったマタニティドレスを作ったのだった。
「リュシエンヌ……」
リュシエンヌの姿を上から下までじーーーっくりと眺めるベノム。
「なぁに?ベノム」
告白の返事を待つ乙女のような目でベノムを見つめるリュシエンヌ。
「最高だよ、リュシエンヌ。さすが我が妻だ……本気にさせた事を後悔するなよ?(ちゅ」
熱い瞳でリュシエンヌを見つめながらキスをするベノム。
「あっ……ベノムっベノム〜〜〜(むちゅー」
完全に2人だけの世界を構築するベノムとリュシエンヌ。
「わ、わっわっ」「これは……(ごくり」
間近で愛の交換を見せ付けられる使用人たち。
「ふぅっ……(ちゅ」
5分にも及ぶキスを終えて高揚した顔を離すリュシエンヌ。
「ふふ。それじゃぁ張り切って今日の仕事を終わらせてくるよ、リュシエンヌ」
「うん。頑張ってらっしゃいませ、あ・な・た(はぁと」
会議を抜け出していたベノムを見送るリュシエンヌ。
「さてと……」
動くに動けず、ずっと居た使用人たちを睨み付けるリュシエンヌ。
「「あわわわわわわわわわ」」
抱き合って震え上がる使用人たち。
「ふ……そんなに怯えなくてもいいわよ。どうせベノムが手を出したのでしょうし。さっさと仕事に戻りなさい」
そう言い残すとサッと踵を返すリュシエンヌ。
「た、たすかったぁ〜」「あ、あぶなかった……」



寝室でベノムとリュシエンヌがベッドに横たわっている。
「ねぇ、本当にやるの?」
ベノムの顔を覗き込みながら真剣な顔で質問するリュシエンヌ。
「やるさ。今更止められない。それに……」
リュシエンヌの顔を撫でて、ベッド脇にある卵を見る。
「お前とメリュジーヌのためでもある」
その瞳は決意に満ちていた。

 作者

メリュジーヌ