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SS:ふたりのひみつ

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「ふう、いいお湯です〜」
深夜の大浴場、一人湯船につかる少女の姿がある。
アルテリア=エルマ=シルグムンテス。今は無きシルグムント王家最後の生き残りである。
普段正体を隠し男装をしているため、深夜の誰も来ない時間帯に入浴しているのだ。
時間の制約があるものの、大浴場を独り占めできる贅沢はまた格別なものである。
男の格好で女湯に入るところを見られては問題があるので、入っているのは男湯である。

ガラガラガラ!
突然浴場の扉が開く音が聞こえ「えっ?」と思い振り向くと、入ってきた人物と目が合った。
『きゃっ!!』
お互い似たような叫びを上げ体を隠す。
(・・・え?ここ・・・男湯だよね?)
男性が入ってきたと思い慌てて目を伏せたのだが、女の子のような声に怪訝に思い顔を上げる。
そこにいたのは同じギルドに所属する、ロシェル=ベルフェゴールであった。

ギルドを束ねるメリュジーヌ・ユベール・フォン=ベルフェゴールの二人の姉のうちの一人である。
いつもひらひらと可愛い服を着ているのを見て、正体を隠すため男装している自分と重ね合わせ、アルテリアは少し羨ましく思っていた。
「ロシェル・・・さん?」
入ってきた相手が女性と分かり少し安心し顔を上げる。
「アルマ君・・・え!?君、女の子!?」
驚き体を隠していたタオルを落すロシェル。
落下するタオルにつられ視線を下げるアルテリア。
目に映った物に違和感を感じ思考が停止する。
(そーせーじ・・・?)
はてな?と首をかしげる。

「っきゃあぁぁぁぁ!!!!!」
ロシェルの股間に付いていた物は、男の子の印。
ようやく違和感の意味に気づいたアルテリアは叫び声を上げる。
「うわーっ、まってまってまって!!!」
慌ててアルテリアの口を塞ぐロシェル。
「もごもごもご」
「君にどんな事情があるか知らないけど、ボクと同じで性別を偽っていたことは人に知られたくない。そうじゃない!?」
ロシェルの言葉にはっとし、抵抗を緩める。
「手を離すけど、叫ばないでね?」
問いかけるロシェルに、こくんとうなずく。
口を塞がれていた手を離され、湯船の奥の方へ後ずさる。

それから二人はお互いの事情を語り合った。
ロシェルは幼い頃スクールでのいじめに合い、とある事件以来女装するようになったこと。
アルテリアは詳しくは話せないが、命を狙われる恐れがあるため男装して正体を隠していること。
そしてお互いの間逆な状況に笑いあい、しばし雑談を交わす。
特にもともと王族・貴族であった二人は、最新のドレスやお気に入りの可愛いドレスの話で盛り上がったようだ。

「ふう・・・お話が楽しくてのぼせそうになりました・・・
 そろそろあがりますね〜。」
上気した顔で言うアルテリア。
「あ、うん、ボクは・・・もう少ししたらあがるよ。」
少し困った顔で言うロシェル。
「そうですか?ではお先に失礼しますね。」
無防備に湯船から上がり出て行くアルテリア。
「・・・ボクも男の子なんだし、もうちょっと警戒してくれないと・・・その・・・逆に困るな・・・」
その姿を見送り、ため息を吐きながら呟く。
その声を聞きつけたかのように、浴場の扉からひょこっと顔を出すアルテリア。
「今日のことは、ふたりだけのひみつにお願いしますね?」
「あ、うん、ふたりのひみつだね!」
どきっとしつつも答える。
「ではまた明日〜」
にっこり微笑み、じゃあねっと手を振り去っていくアルテリア。
「・・・面白い娘だね。」
やれやれ、と肩をすくめるロシェルであった。

  作者

アルマ

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