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SS:ねこまっしぐら

「そっちに逃げたぞ!捕まえろ!!」
数人の男が叫びながら、なにやら小動物を追いかけ駆け回っている。
ザラの評議員議員ガスパールの屋敷で働く下男達だ。
「きゃっ!」
ふらふらと散歩をしていたアルマの横を男が駆け抜け、突き飛ばしてしまう。
「おっと、すまんな!」
男はアルマの手つかみ、引き起こす。
「どうしたんです?」
膝の埃を払いながらアルマは尋ねる。
「いやぁ、おれらの晩飯のネタが逃げちまってなぁ…いま追っかけてる所なんだわ。」
「ネタ?ですか?」
「おうよ、でっかい猫が迷い込んできたんで捕まえて食っちまおうかと思ってな。」
その言葉を聞き、アルマは柳眉を跳ね上げる。
「ねこを食べるなんて言語道断です!」
アルマの語気に男は一瞬ひるむが、すぐにアルマを睨み返して言う。
「旦那様の客人のあんたみたいな奴にはわからんだろうが、俺たち下々の者にとっては猫だって立派なタンパク源なんだよ。
 生きるためには好き嫌いなんぞ言ってられねぇのさ。」
「で、でも…!」
さらに言い募ろうとしたその時。
「捕まえたぞー!!」
屋敷の裏庭のあたりから歓声が上がる。
「えっ!?」「おっ!?」
アルマと男は同時に声を上げ、声のした方へ駆けて行く。

そこには一匹の猫?が網に絡まりもがいていた。
大きさは猫と言うには少し大きく、人の幼児程の大きさである。
「やめてください!」
アルマは網の上から猫を抱きしめ、かばう。
「なんだテメエ!じゃますんじゃねーよ!」
「こちとら生活がかかってんだ、安月給だけじゃ食っていけねーんだよ!」
男たちが周りを囲み怒声を上げる。
「で、でも…」
その剣幕に押され言葉が出ない。
「まあ、まてまて」
その中のリーダー格と思しき―アルマを突き飛ばした―男が静止の声を上げる。
「じゃあ、取引と行こう。」
アルマに向き直り提案をする。
「俺ら全員分の昼飯一週間分奢ってくれや。それでチャラにしてやるぜ?
 おっと、それも安飯じゃなく、料亭の出前で頼むわ。」
男たちは十数名いる。全員分の一週間の昼食となると、それなりの額になる。
15歳と言う年齢よりも幼く見えるアルマに、払えるはずも無いと思っての提案だ。
「え、そんなことでいいなら!」
『は?』
軽い口調で答えるアルマに、男たちは一斉に疑問符を投げかける。
「今はこれしか持ち合わせがありませんが…これで足ります?」
アルマは懐から大粒の宝石をだし、男たちに差し出す。
『はぁぁぁぁ!?』
その辺の宝石商に捨て値で売っても、男たちが一週間どころか半年食事してもお釣りが来るほどの価値がある。
「これじゃ足りませんでした…?」
眉根を寄せ尋ねるアルマ。
「い…いやいやいや!それでいいぜ!それで勘弁してやる!」
宝石をしまおうとするアルマに対して、慌てて言い繕うリーダー。
「よかったぁ。それじゃ、ねこちゃん放してやってくださいね?」
「おうよ、いいともさ!それじゃ俺たち用があるから後は好きにしな!」
気が変わって取引が反故にされてはならぬとばかりに、脱兎の如く去っていく男たち。
「よかったね。ねこちゃん?」
アルマは猫から網を外して頭をなでる。

「ありがとうございました。」
どこかから声が聞こえてきて、キョロキョロとあたりを見回す。
「あっれ〜?空耳かな?」
アルマは、はてな?と首を傾げる。
「ここです、ここ。私ですよ。」
声は目の前から聞こえる。
「…ねこちゃん?」
「はい、そうです。猫ではなく虎ですけどねぇ。」
少しけだるそうな口調で答える猫…いや虎。
「わー!すっごーい!ねこちゃん喋れるんだ!?」
満面の笑顔で猫…いや虎…に抱きつくアルマ。
「ちょ…!苦しい、苦しいですって!」
もがく猫…虎…もう猫でいいや。
「かわ〜い〜い〜♪」
抱きつく腕をさらに強め、頬をすりすりする。
「く…苦し…」
「ぎゅ〜♪」
息も絶え絶えの猫、さらに強く抱きつくアルマ。

ボウンッ!!

突然の腕の中の何かが膨れ上がり、アルマは弾き飛ばされる!

「そんなに強く抱きしめたら窒息しちゃうにゃん!?ばっかにゃん!?」
目の前には、猫耳を生やした女の子の姿があった。
「あれ?ねこちゃん…?」
事態が飲み込めず、呆然とするアルマ。
「猫じゃないって言ったにゃん!虎なのにゃん!」
驚き思考が停止しているアルマにむかいまくし立てる猫…猫娘?
その姿を見てはっと我に返り、しまった!と言う顔をする。
アルマは肩を震わせ俯いている。
「あ、あの…驚かせちゃったにゃん?」
そーっと下から覗き込む猫娘。
「す…」
「す?」
言葉を振り絞ろうとするアルマに対して聞き耳を立てる。
突然顔を上げるアルマ!
その顔は満面の笑みに輝いている!
「すっごーい!ねこちゃん人間にもなれるんだ!?」
再び猫娘に飛びつき、抱きしめるアルマ。
「く〜る〜し〜い〜にゃ〜!!!」
がくっと首を落とす猫娘。
どうやら意識を失ったようだ。
「そうだ、今日から私と一緒に住みましょう!名前もつけて上げないとね。」
う〜ん…と首をかしげ考えるアルマ。
「アルストリア…そう、アルストリアにしましょう!ね、いい名前でしょう?」
ぐったりしている猫娘に問いかけるアルマ。
「ね〜え〜、アルストリア〜起きて〜!」
猫娘…もとい、アルストリアが意識を取り戻すのは、それからしばらくたった後であった。


「なんてことがありましたねぇ。」
「そうだねーなつかしいね〜」
ギルド、レギオンズソウルの本拠地の裏庭。
アルマとアルストリアは芝生の上に座り、出会った頃の思い出を語り合っている。
「でも、なんで屋敷を出て私を追って来たの?」
「アルマさんが屋敷を出て、フェルディナンドさんも何故か姿が見えなくなったので、私に食事をくれる方がいなくなりましたもので。」
「え?爺やも居なくなったの?」
眉根を寄せて思案気な顔をするアルマ。
「そうなんですよ。ですので、アルマさんの匂いをたどって来たのですよ。」
くんくんと鼻をならし匂いを嗅ぐ真似をするアルストリア。
「っと、あれ?この匂い…どこかで…」
「どうしたの?」
何かの匂いに気づいたらしく、あたりをキョロキョロ見回す。
「あー!!!」
背後から誰かの驚いたような声が聞こえた。

振り向くと、そこにはロシェル=ベルフェゴールの姿があった。
「大河ぁ!大河ぁじゃないの!?」
「お久しぶりですロシェルさん」
アルストリア…いや、大河ぁ?は頭を下げロシェルに一礼する。
「こんな所でどうしたの?て、アルマくん?」
やっほー、とひらひら手を振るアルマ。
「今は、アルマさんの所でお世話になっているんですよ。アルストリアと名前をつけて頂いています。」
「そっか、大河ぁ…じゃなくてアルストリア?元気だったんだね。」
優しい微笑を浮かべるロシェル。
「アルストリア、ロシェルくんと知り合いなの?」
アルマが尋ねる。
「はい、アルマさんの前にお世話になっていたのですよ。その時は大河ぁと呼ばれていましたね。」
「大河ぁか…名前があったんだねー」
う〜ん、と考え込むアルマ。
「よし、あなたの名前は今日から大河ぁ=アルストリアよ!」
高らかに宣言するアルマ。
(大河ぁ=アルストリアか…本当の名前は別にあるのですが、まあいいでしょう。)

この獣人族の子虎と二人の関わりが後に大きな力となることは、この時点ではまだ誰も予想だにしていなかったのだ。

 作者

アルマ