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SS:いつか見た未来

 本文


―――夢を…見たんです…荒々しく、激しい夢を…―――

遺跡の中、剣戟の音が響き渡る。
一方は斧槍、一方は剣、どちらの得物も魔力を秘めた業物である。
「お父様の仇!覚悟!」
アストレア・ミレ=ベルフェゴールが斬撃を叩き込む。
「ま、まて!俺は戦う気はない!」
必死に斬撃を受け、説得を試みるアルディン。
「あなたはずっと私達を欺いていた!」
「誤解だ!俺はただ純粋に・・・」
「言い訳無用!」
魔剣を上段から叩き込むアストレアに対し、斧槍で受け止める。
「ならば!」
腕力に勝るアルディンを押し込めないと見たアストレアは、魔剣を短剣サイズに収縮させ斧槍をすりぬけ、すかさず剣サイズに戻し突きを繰り出す。
「うお!」
魔剣は、体勢を崩しつつもかわすアルディンの横腹を掠める。

「はぁっ…はぁっ…」
体力的に勝るはずのアルディンだが、防御のみに徹しているため疲労が激しい。
致命傷は無いが、次第に身体のあちこちに細かい傷が増えてくる。
いつか致命傷を受ける。そんな危機感が、さらに疲労を蓄積させていく。
(俺はこんな所で死ぬわけには行かない…やるしかないのか!?)
迷いつつも、攻めに転ずるべく闘気を溜める。
「これでとどめです!」
満身の力を込めて斬撃を繰り出すアストレア。
「やらせん!」
破龍闘神流の奥義を繰り出すアルディン。
お互いの獲物が噛み合い、派手なスパークを周囲に飛び散らせる!
一瞬でも力を抜いた方が押し負け、そのまま消し飛ぶかのごとき闘気の奔流。
周囲の地面がえぐられ、石礫が舞い踊る!

「やめて!!」
闘気の激突を切り裂いて制止の声が上がる。
割って入ったのは一人の少年…いや少女であった。
『アルマ!!』
無防備に飛び込んできた姿に驚きの声を上げた二人は、同時に闘気のベクトルをずらしお互いの攻撃を受け流す。
闘気の奔流は虚空に消えて行き、その余波はアルマの前髪を吹き上げる。
「何をやっているんだ!危うくミンチになる所だぞ!?」
アルディンは叱責の声を上げる。
「父の仇を討つことは私の悲願、邪魔をしないで!」
アストレアも非難の声を上げる。
「いいえ…止めさせてもらいます。あなた達二人が争う必要はないから…」
「争う必要が無い?この男は父の仇…シルグムント軍傭兵部隊長のアルディンその人だったのよ!?」
アルマの言葉に反論するアストレア。
「いいえ、アルディンさんは雇われてその責務を全うしただけ…」
悲しそうな顔でうつむくアルマ。
「そのアルディンを雇った国は滅びた!私が討つべきは、父をその手にかけたアルディンよ!」
意を決したかのように顔を上げるアルマ。
「あなたが討つべきは、この私…
 私の本当の名前はアルテリア=エルマ=シルグムンテス
 シルグムント王国最後の生き残りです!」

『なっ!?』
アストレアは驚きの声をあげ、アルディンは「しまった」と顔をしかめる。
「アルマ…あなたが!」
思わず一歩踏み出すアストレア。
ザンザンザンッ!
その足元に続けざまに矢が撃ち込まれる。
矢が飛んできた方向を振り向くと、そこには弓を構えた黒衣の少女の姿。
「さくら!?」
ギルドメンバーの一人、霜月さくらである。
「故あって、アルマさんの護衛の任を受けております。
 アルマさんを手にかけるつもりであれば、私がお相手させていただきます。」
静かに、しかし紛れも無い殺気をまとい言い放つ。
「じいやのさしがね…?」
アルマはつぶやく。

騒ぎを聞きつけ、他のギルドメンバーも集まってくる。
「アスナ姉さん、何があったの!?」
「あらあら、騒々しいですわね。」
ベルフェゴール家の姉妹(?)がアストレアの左右に控える。
アルマの左右にはアルディンとさくら。
一触即発の空気に他のメンバーは戸惑い、遠巻きに見ている。
「私の命で良ければ、差し上げます。」
沈黙を破りアルマが言う。
その場の全員が驚きの視線をアルマに向ける。
皆の視線をよそに、アルマは続ける。
「ただし条件があります。
 この偽島の探索が、成功にせよ失敗にせよ終わったら。
 と言うことにしてはもらえませんか?」
「アルマ…いえアルテリア!」
アストレアが叫ぶ。
「アリアドス王を暗殺したのは私の父…あなたにとっても私たちは仇の子であるはず…
 なのになんで!?」
「私の望みは、敗戦し虐げられている国民の解放…
 それに、真の敵は他にいますから。」
その言葉に片眉をピクンと跳ね上げるメリュジーヌ。

「ふう…負けたわ、アルマ」
やれやれという顔で苦笑するアストレア。
「私心ではなく、国民のためとまで言われて承知しなかったら、私が悪役じゃない。」
殺気を納めたアストレアを見て、アルディンも刀を納める。
「俺も故あってアルマを殺らせる訳にはいかなくてな。
 全てが終わったら、一騎打ちでさっきの続きって事でどうだ?」
「望む所です。やはりあなたは父を直接討った仇。見過ごすわけには行かない。」
「じゃあそれまでは今まで通り、みんな仲良く!ねっ?」
横から二人の手をとり、無理やり重ね合わせるアルマ。
事の詳細はあとできちんと説明すると伝え、怪訝な顔をしつつも散っていくギルドメンバー達。
当事者たちも、多少のわだかまりを残しつつその場を後にする。

去り際、すれ違いざまにメリュジーヌはアルマに囁く。
「シルグムント戦役の発端、あなたも疑ってらっしゃるのね?」
「そういうメリュジーヌさんも?」
「ええ、武人たる私の父上が、暗殺などという卑劣な手を使うはずはありませんわ。
 それにしてもあなた、とんだタヌキでしたわね。」
「タヌキ?かわいいよね!」
にっこり笑ってポンポコ踊りをするアルマ。
「ほんと、タヌキですわね…」
苦笑するメリュジーヌ。
そしてそれぞれの思いを胸に、いつもと変わらぬ夜が更けていく。

夢から目が覚める。
「どうした、セルリアン?」
国王の寝所、若き日のアリアドス王が傍らの女性に尋ねる。
「夢を…見たんです…荒々しく、激しい夢を…」
荒い息を抑えて答える女性。
セルリアン=リース
タリスベル教国教皇の三女にしてシルグムント国王アリアドスの妻である。
「夢?まさか予見の夢見か?」
予見の夢見―タリスベル教皇家の女性にまれに現れるという、夢の形で未来を見通す力である。
「いえ、あなた様と契を交わした時より、力は失われております。」
処女性と共にある能力ゆえ、婚姻とともに失われると言われている。
「ならば良いが、どのような夢であったのだ?」
「成長したエルマが出てまいりました。」
母性の笑みを浮かべ、傍らのベビーベッドに眠るエルマを見る。
「ほほう、美人になっておったか?」
ニヤリと笑みを浮かべ尋ねるアリアドス。
「ええ、とっても。」
その答えにそうかそうかと頷くアリアドス。
「あ、そうそう。エルマの近くに男性がいたのですが、あなた様にうり二つでしたわ。
 年の頃は…エルマの4,5歳程上くらい、アルカードと同じくらいでしょうか…まさか、浮気なんてしてませんよね?」
ニッコリと笑いつつ問いかける。…目は笑っていない。
「な、なななにを言う!そそそんなワケはあるはず無いではないか!!!」
慌てて否定するアリアドス。
「まあ、信じて差し上げますわ。でも、もし浮気なんてしたら…解ってらっしゃいますよね?」
ニッコリ笑うセルリアン。
「も、もちろんだ…」
「ともあれ、私達の子供達に幸せな未来が訪れますように…」
「うむ、その為に私も頑張らねばならぬな。
 手始めに、妖魔の国との国交を樹立し対帝国戦の後顧の憂いを絶たねばな。」
夫の顔から国王の顔に切り替えるアリアドス。

この後世界は激動に包まれる事になるのだが、それはまた別の物語である。

 作者

アルマ