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SS:黒い雷光

「頑張るんだ、もうすぐ国境を越えられる」

夫婦らしき男女と少女が闇の中を進んでゆく。


「ストーップ!ゲームオーバーだってばよぉー」

「むふぅ〜ぅん・・・奥様ってば巨乳でいらっしゃるんですねぇー」

いつの間にか、武装した兵士に囲まれていることに気がついた。



「伯爵!こんな夜更けに、どちらにお出かけですかな?」

蛇のような目をした青白い男が不気味に微笑みながら尋ねた。

「き・・貴様・・・何故ここを?!」

「ふふふ・・・隠し事とは尋常ではありませんな、伯爵!」


男が指を鳴らすと、兵士たちは乱暴に伯爵を拘束した。


「あなたっ!」

「お父様ぁー!!」

「うるせぇってばよ〜ぅ」

「げへへぇ〜・・・隊長。この女、オデがもらっていいっすかぁ〜?」

「お前って、ほんと熟女好きだなw まぁ、俺は娘のほうをもらうから、好きにしたらいいってばよー」

「あざーーーーっす!」



そのとき、黒いローブ姿の男が、ふわりと間に舞い降りた。

「あぁ〜ん?あんだ、おめぇ?」

金髪にレイバンのサングラス。頬に無数の傷をもった男は、それに答えず

ゆっくりと伯爵の元へ歩みだした。


「て、てぇんめぇ〜!ぶっ殺してやるってばよぉーっ!」

兵士たちは男を飛び掛ったが、その場にもんどりうった。

「あ・・あぁ!?・・足が・・足がな・・無ぁぁ〜なぁ〜い〜ってばよぉ〜!」



蛇の目の男が立ちはだかる。

「ククク・・・まだ生きていたとは・・・。シルグムントの亡霊は消えるべきですなああああああぁぁぁぁっ!!」

男の目が琥珀色に輝くと、巨大な大蛇の姿に変身した!


黒いローブの男は、サングラスを投げ捨て剣を抜いた!

サングラスの下からは。碧く透き通った少年のような清らかな瞳が現れた。

 ウィィーーーーンッッ!

漆黒の刃が唸り声をあげ、刀身に掘り込まれた白金の十文字がまばやく光を放つ!

「――ウルディアの加護(まもり)あれ!!」

男は剣に祈りを込め、目を伏せた。


「クククク・・・黒い雷光おぉぉぉっ!!マナの力を得た、私に勝てると思うかぁーっ!」

大蛇の首が7つにわかれ、男の喉笛に襲い掛かかる!


――が、次の瞬間7つの大蛇の首が宙を舞った。

「良き夜を」

男は漆黒の剣を鞘に収め直すと目を開いた。




「貴公は、漆黒の騎士団の・・・」

「は、ガーム・ベル=イブリスと申します」

「黒十字の剣・・・。お父様!漆黒の騎士団の”黒い雷光”ですわっ!」

少女が興奮したように言った。


「もはや昔の話・・・しかし、無事で何よりでした」

「ガーム・ベルよ。シルグムントでは反乱軍狩りが始まっておる」

「はい、帝国の幹部が辺境の島まで偵察に来ておりました」

「アリアドス王の姫君が・・・生きているらしいのだ。帝国も情報を嗅ぎつけた」

「な、なんと!それは真実ですか」

「うむ!帝国と妖魔が水面下で手を結び、動きだした。ベルフェゴール家率いる保守派の力が衰えたからな・・・」

「くっ・・・」

「妖魔国では保守派による翻意の機運が高まっておる。私はこれから妖魔国へ協力者を募りに行く」

「伯爵様」

「ガーム・ベルよ。我が家族を安全な地へ・・・。そして王家の血を探し出してくれ!」

「はっ!!」


消え入りそうなほど細くなった月光の下、シルグムントの明日を作る力が動き出した。


(・・・偽島に隠された力)

ガーム・ベルは思いを馳せた。

(過去を操ることが・・・本当にできるとしたら・・・)


ガーム・ベルは母国復興の希望と、どす黒い不安が首をもたげるのを感じた。

 作者

パティ☆